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宿泊予約経営研究所所長の末吉秀典が注目の宿泊施設をご紹介するこのコーナー。
今月は、「葉山温泉 名月荘」さんの体験レポートをお届けします。
11月中頃、東京から約2時間半、JR山形新幹線の車中から眺める
山形県境の峠はすでに落葉がすすんでおり、
防雪林の針葉の深緑と広葉樹の幹の灰汁色のコントラストが、
まるでまもなく銀世界が訪れることを教えてくれているようです。
名月荘のある山形県上山温泉郷は、
上山城を中心として開湯500年以上の歴史を持つ湯の町です。
最近ではアカデミー賞に選ばれた
滝田洋二監督作「おくりびと」のロケ地としても人気を博しています。
名月荘はそんな上山温泉郷のひとつ、葉山温泉の高台に位置し、
館内からは上山市街や雄大な蔵王連峰を望むことができます。
約4000坪の広大な土地には、20室の客室があり、うち11室には専用の風呂が設えてあります。
客室はそれぞれデザインが異なり、
リピーターのお客さまでも異なるデザインの客室を選ぶことができます。
窓外の景色も、静寂のひろがる中庭か、雄大な蔵王連峰のどちらかが選べます。
備え付けの風呂以外には男女別大浴場と露天風呂、
巨大な蔵王岩で造られた貸切露天風呂、深湯を堪能できる家族風呂があります。
その他にはボディサロンや酒蔵、図書室など
プライベートを満喫できる空間が広がっています。
特におすすめなのが貸切露天風呂に向かう途中のテラスから眺める景色。
昼は蔵王の山々を、夜は月光に照らされる上山の街や山々を愛でることができます。
人の息吹を感じさせる街並みと、遠く広がる蔵王の山並みが不思議と調和している風景は、
名月荘のゆったりとした空間からだからこそ望める風景でしょう。
ご主人の菊地敏行さんとお話ししたなかで特に印象的だったのが
「宿の中で変えていくものと、変えないもの」のお話。
「平成8年に改装してから来年で15年です。
現在の名月荘になるまでに館内や客室の設えをその時々で少しずつ変えてきました。
山形の片田舎まではるばるお越しいただいたお客さまに、
ゆっくりのんびり過ごしていただく空間を、これからも創っていきたいです。
変わらないものといえば、夕食にお出ししている手打ちうどんでしょうか…?
リピーターのお客さまから大変好評で、これを楽しみにしてくださる方も結構いらっしゃるんです。
あとはスタッフのおもてなしの姿勢ですね」
15年間の間で変わらないものが手打ちうどんというのが意外で興味深くありませんか?
変わらない味があるというのは、宿のファンをつくるひとつの理由といえるでしょう。
実際に泊まらせていただくと、名月荘の人気ぶりが体感できます。
客室はどこもゆったりと広く、液晶テレビやDVDプレーヤーなどを完備し、
1室をのぞきテーブル席のリビングを持っています。
客室内のテーブル席は意外と便利で、
朝、寝室を気にすることなく美味しい食事をいただくことができます。
玄関を出て庭の小道をすすむとプライベートな時間を過ごせる談話室やギャラリーなどもあり、
毎月、一流の音楽家による「ムーンライトコンサート」などが開催されているそうです。
昔から月を愛でるのに適した土地として慕われてきた上山。
蔵王連峰の雄大な景色を名月荘のテラスから眺めていると、ふと気づきます。
ご主人のこだわりが、この広々とした空間の中で常に創造され、
それがお客さまの期待を裏切らない宿を形づくっていることに。
…それにしても手打ちうどんは本当に美味しかったです。
さすが、楽しみにするお客さまがいるだけはありますね。
(文・写真:末吉 秀典)