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宿研通信 7月号

気になる宿屋レポート 末吉が行く

宿泊予約経営研究所所長の末吉秀典が注目の宿泊施設をご紹介するこのコーナー。
今月は、「彩り湯かしき花と華」さんの体験レポートをお届けします。

「湯西川温泉 彩り湯かしき花と華」

「鬼怒川で湯を愉しむなら川治、川治で愉しむなら川俣・湯西川、それでもなお愉しむなら奥鬼怒」
昔、こんな風に先輩から教えてもらったことがあります。
山間の谷間を車でさらに分け入っていくと、
大自然と野趣あふれるダイナミックな温泉を愉しめることを言い表した言葉です。
その言葉で、首都圏から車でわずか3時間程度の場所に、
とても魅力的な温泉場があるのを初めて知りました。

今回は栃木に数ある魅力的な温泉場のひとつ、
湯西川温泉にある「彩り湯かしき花と華」に注目しました。

平家伝説の残る温泉場、湯西川温泉

鬼怒川温泉から名所 龍王峡を抜け、
五十里湖の畔を車で60分ほど進むと湯西川温泉にたどりつきます。
四方を高い山に囲まれ、湯西川の清流沿いに大小の温泉旅館・民宿が里町を形成しています。
今から800年前、源平合戦に敗れた平家一族が、
この地に逃れ、傷を癒したと伝えられる温泉場です。

そんな歴史の色濃く残る湯西川温泉にある彩り湯かしき花と華は、
4つの館で構成される国際観光ホテルです。


お客さまをお迎えするエントランス。
行灯の演出が心ときめく
お客さまをお迎えするエントランス。行灯の演出が心ときめく


雅な十二単の色合いと、草花の彩りを意識した館内には、9種類の客室があり、
温浴施設も男女合わせて10種類の湯船を完備しています。

平家の囲炉裏端を再現した「お狩り場焼き」など地元の伝統料理や、
屋外に蚊帳を吊り夕食をいただく夏の風物詩「かや夕宴」が名物です。

 
山間の緑が客室に溶け込む春の花見館 山間の緑が客室に溶け込む春の花見館
渓谷沿い野趣溢れる岩組のお風呂 渓谷沿い野趣溢れる岩組のお風呂


インターネットの取り組みも積極的で、
じゃらん.netや楽天トラベルでは鬼怒川の大手ホテルと1・2を争っています。
二人連れ、ファミリー、グループなど、ターゲットを意識したプランを次から次へと打ち出し、
宿泊予約サイトの機能を徹底的に使いこなしています。

自社ホームページにも力を入れており、
最初にホームページを制作した時は、私もお手伝いさせていただきました。

そんな彩り湯かしき花と華にまつわるエピソードでご紹介したいのが、
今回の震災時のストーリーです。


 
日本一に輝いた「とちぎ和牛」を
贅沢に使った会席料理
日本一に輝いた「とちぎ和牛」を贅沢に使った会席料理


周りが営業を停止する中くだされた、山城氏の決断

専務取締役の山城義嗣さんとは14~15年のお付き合いになります。
震災の日、山城さんは東京にいたそうで、
その日は交通網が麻痺して湯西川には帰れなかったといいます。
翌日、なんとか東武鉄道を乗り継いでたどり着いた彼が、
宿で目の当たりにしたのは震災の影響による予約キャンセルのラッシュでした。

震災前までは3月の予約は順調で、昨年実績も上回っていたのが、
翌日にはほぼ全てがキャンセルだったそうです。
大勢のスタッフを抱えている中で、3月いっぱいの閉館を決断。

しかし、湯西川温泉を活性化させるため、4月1日から営業を再開させました。
それまで、計画停電で灯りのつかない館内で、
ロウソクの火をたよりに、残ったスタッフと一緒に営業再開に向けて、
館内の保守点検作業をスタート。

「1日、2日は予約がゼロでした。3日にはじめて数組のお客さまが泊りに来られた時、
今までに感じたことがないくらい感謝の気持ちでいっぱいになりました」
山城さんはこう語ってくれました。

私から見て、彼は常に「地域と宿の在り様」を追求し、
努力を続けていらっしゃる方のひとりです。
彼はやはり震災という非常時にも、
地域のことを考え、他に貢献する宿づくりを貫いていたのです。

緑豊かな谷間の里、湯西川温泉。
冬のかまくら祭りに始まり、川俣湖を遊覧する水陸両用車、
7月の竹灯籠を活用した竹の宵まつり、オーロラ鑑賞会など
地域イベントが盛りだくさんの温泉場です。

魅力的な地には魅力的な宿がある。
これからの地域と宿の在り様を考えさせられるエピソードでした。



(文・写真:末吉 秀典)

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