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宿泊予約経営研究所所長の末吉秀典が注目の宿泊施設をご紹介するこのコーナー。
今月は、「ての字屋」さんの体験レポートをお届けします。
♪草津良いとこ一度はおいで あ~どっこいしょ
お湯の中にもこーりゃ花が咲くよ ちょいなちょいな
草津節の鼻歌交じりで長野新幹線あさま号から軽井沢に降り立てば、
澄んだ青空に黄金色の陽の光が秋の装いを感じさせてくれました。
車で軽井沢の街を抜け、左手に浅間山を眺めながら進んでいくと、
日本三名泉に数えられる草津の温泉街に入っていきます。
草津温泉は毎分32,300リットル以上の温泉が湧き出ており、自然湧出量日本一を誇ります。
街中では共同浴場、足湯などを楽しむことができ、
木の桶が並びもうもうと湯けむりを上げている湯畑は草津温泉のシンボルとなっています。
今回ご紹介するのは、その湯畑の傍に佇み、
美しい温泉文化と上質な気品を愉しめる湯宿「ての字屋」です。
宿屋としての創業は江戸時代末期ですが、ての字屋の由来は1192年まで遡ります。
源頼朝公が鷹狩りの際に温泉を見つけ、
案内役の者に温泉の発展を任せたという有名な逸話が。
屋号である「ての字屋」は当時の領主であった湯本家の繁栄を
人々が「天の字(てんのじ)」と称したことに由来しています。
宿の前にたどりつくと、温泉料亭の風格を醸し出す宿構えと、
幽玄な行灯の灯りが旅人の旅情を掻き立ててくれるようです。
客室はわずか12室ですが間取りが広く、数寄屋造りの落ち着いた空間が広がります。
その中でも路地に面した客室は、
静寂の中にも行き交う人々の息吹を感じる京都の町屋のような雰囲気です。
ての字屋は1200余年の歴史を誇る草津温泉唯一の天然岩風呂が有名で、
温泉宿番付などでは常に上位にランクインしています。
岩盤から直接湧き出る源泉は、乳白色でとろりとした肌触り。
樹齢500年を超える古代ひのきの湯槽に身を沈め、
目の前で湧き出す草津一の源泉を堪能できるのは、ての字屋だけの贅沢です。
秋の暮れゆく夕刻、一品ずつ仲居さんが丁寧に運んできてくれる自慢の京風懐石料理に舌鼓。
懐石には旬の素材はもとより、早生や名残を感じさせる素材も使われていました。
懐石料理の愉しみは一品一品の意味を考え、感じながらいただくこと。
今回も大変美味しくいただきました。ご馳走様でした。
今回は、女将の立川ふさ子さんに、ての字屋の魅力について伺いました。
「温泉もお料理も魅力の一つですが、一番の魅力はおもてなしの心です。
お客さまとの間合いを大切に。近づきすぎず、離れすぎず、を常に心がけています」
ての字屋では、電話で予約を受ける際にお客さまの旅行スタイルを想像し、
ご到着時のおもてなしの準備を仲居さん伝えているのだとか。
玄関に飾られた「一客一亭」の額に、女将の心が表れているようです。
「お客さま一人ひとりにちょっとした気遣いを心がけています」と語ってくれたのは、
フロントコンシェルジュの沼田久美さん。
「例えば、これから冬の季節に散歩に出かけられるお客さまを見かけた時には、
防寒用のマフラーを手渡し、お帰りになったときには換えのタオルと浴衣を差し上げております。
常に妥協せず、これでいいやとは思わない。
そうすることでお客さまからのありがとうという一言がモチベーションに繋がります」
まさに一組のお客さまに対し、一つのおもてなし。
その小粋な気遣いが、気品ある館に色を添えています。
現代的な高級旅館がもてはやされる今日この頃ですが、ての字屋は温泉街の老舗として佇み、
高級料亭の品格と上質な湯処でお客さまをもてなしてくれます。
日本文化の美しさを改めて感じさせてくれる湯宿でした。
(文・写真:末吉 秀典)
草津温泉 ての字屋 |
〒377-1711 群馬県吾妻郡草津町草津360
0279-88-3177 →ての字屋 公式HP |
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電車でJR長野新幹線軽井沢駅からバスで55~78分。
お車で上信越自動車碓氷軽井沢ICから国道18号線・国道146号線を経て 国道292号線経由で約75分。 |