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宿研通信 11月号

気になる宿屋レポート 末吉が行く

宿泊予約経営研究所所長の末吉秀典が注目の宿泊施設をご紹介するこのコーナー。
今月は、「紀州奥白浜椿温泉 海椿葉山」さんの体験レポートをお届けします。

和歌山県 紀州奥白浜椿温泉  海椿葉山

『南紀州椿温泉に生まれた人間として、私はこの地の魅力について考えることがあります。
心に浮かぶのは、海の美しさであり、魚の旨さであり、温泉の心地よさであり、 つまりは平凡な結論に行き着くばかりで、苛立つこともしばしばでした。

ただ、海や魚や温泉以外の何物もない湯治場で宿を営む私が、
これらの魅力を正確にお伝えしてきたか? と問えば答えは否です。

夕映えに染まる椿の海は決して平凡な風景などではなく、魚や温泉にしても同じはずです。
ありもしない魅力を追うよりも、
必要なのは、目の前の恵みを本来の姿で楽しみ感じていただくための舞台ではないか?
そんな思いがこの宿の出発点になりました。』

今回ご紹介する湯宿は、和歌山県「海椿葉山」。
まずはパンフレットの冒頭部分をご紹介させていただきました。

赤色が印象的な
竹原義二デザインの外観

「海椿葉山」は平成11年9月に開業した、
太平洋の群青色の海原を見下ろす岸壁に建つわずか客室6部屋の湯宿です。
何といっても注目すべきは赤い瓦と紅色の外壁が目を引く建物のデザイン。
手がけたのは、大阪市立大学教授であり、
経産省グッドデザイン賞や建築学会作品選奨を受賞されている竹原義二氏。

傾斜地を利用した
中庭と船の舳先を感じさせるサロン
傾斜地を利用した中庭と船の舳先を感じさせるサロン
朝日に映し出される
青い空とマッチする赤い瓦屋根
朝日に映し出される青い空とマッチする赤い瓦屋根

夕焼けに染まる
特徴的な紅色の海椿葉山
夕焼けに染まる特徴的な紅色の海椿葉山
2002年
日本建築学会作品選奨の受賞記念
2002年日本建築学会作品選奨の受賞記念

館内は、それぞれ異なる和の設えの客室と海を望む男女別の名湯椿温泉の大浴場。
そして、和船をイメージした特徴的な楕円形のサロンという空間構成。

海辺の宿ということで、厳しい環境に耐えられ、
それでいて、真っ青な海と空に負けないこだわりの色調。
赤い屋根瓦は、メーカーと試行を繰り返して完成させた竹原氏のこだわりだそうです。

宮大工が苦労して創り上げた
独特のフォルムのサロン
宮大工が苦労して創り上げた独特のフォルムのサロン
壁面にはアートが飾られている
開放的な煉瓦敷きの通路
壁面にはアートが飾られている開放的な煉瓦敷きの通路

6室の客室が並ぶ
長屋仕立ての宿泊棟
6室の客室が並ぶ長屋仕立ての宿泊棟
ウッドチェアで海眺めを愉しむ
ウッドデッキコーナー
ウッドチェアで海眺めを愉しむウッドデッキコーナー

今回宿泊した客室は「海風」。土間風の通路と10畳と縁台、そしてウッドテラスの構成。
扉を開くと、青く輝く海が目の前に広がっています。
座ったときの目線が丁度海を眺めるよう、竹原氏がデザインしているとのこと。
綺麗に磨き上げられた大きな窓を開け放つと心地良い潮騒と、風の音も愉しめます。

開放的な大きな窓と
土間風の通路がある「海風」
開放的な大きな窓と土間風の通路がある「海風」
開放的な10畳の和室と
海眺めの縁台とウッドデッキテラス
開放的な10畳の和室と海眺めの縁台とウッドデッキテラス

時の移ろいを感じながら寛ぐ
別荘感覚の縁台
時の移ろいを感じながら寛ぐ別荘感覚の縁台
海正面にゆっくりと
夕日が沈んでいきます
海正面にゆっくりと夕日が沈んでいきます

美肌の湯と称される椿温泉は、ph値9.9という高アルカリの単純硫黄温泉。
大浴場の泉に体を沈めれば、ヌルッとした不思議な感覚が肌を伝わります。
眺望はもちろん、海。
沖を通る船影を追いかけていると、体が夕焼け色に染まる至福のひとときです。

温泉と冷泉
両方を楽しめる「荒磯の湯」
温泉と冷泉両方を楽しめる「荒磯の湯」
海を眺めながら浸かることは
至福のひとときです
海を眺めながら浸かることは至福のひとときです

夕日に染まってゆく海を眺め、
名湯椿の泉質を愉しみます
夕日に染まってゆく海を眺め、名湯椿の泉質を愉しみます
崖の向こうは海。
海風が心地よい「落日の湯」
崖の向こうは海。海風が心地よい「落日の湯」

紀州の自然が生んだ
彩り豊かな美肴たち

夕食は客室にて、地の旬魚と野菜を使ったコース料理をいただきます。
紀州鯛や吉野葛、手鞠寿司など趣向を凝らした10品が一品一品丁寧に運ばれてきます。

梅酒に始まり、先付けは椿の葉をあしらった紅白の手鞠寿司と洋なしの生ハム巻、蒲焼き。
お造りは脂ののった鰹にアオリ烏賊と平目。
朝どれの地元生野菜とオリーブを添えたジャガイモの温スープをいただき、
地の醤油を使用したクリームソース添え紀州鯛の焼き物と続きます。

吉野葛の餡が掛けられた茶碗蒸しの後は、いさきを豪快に素揚げした一品。
身をほぐし口の中に入れれば、潮の甘みと香りが広がり、食欲を一層かきたてます。

最後には地元の栗の身を潰した、食感のあるアイスクリームをいただいてご馳走様。
派手さはない中でもしっかりと紀州の恵みを堪能することができました。
朝食も私の大好きな、かますの焼き物とシラス、
甘みのある卵焼き、そして手作り豆腐と申し分なし。

脂ののった鰹の造りと
手鞠寿司が添えられた先付け
脂ののった鰹の造りと手鞠寿司が添えられた先付け
吉野葛の餡が
掛けられた茶碗蒸し
吉野葛の餡が掛けられた茶碗蒸し

豪快ないさき丸ごとの素揚げの一品。
潮の香りが食欲をそそります
豪快ないさき丸ごとの素揚げの一品。潮の香りが食欲をそそります
朝から贅沢な、かますの焼き物。
卵焼きやしらすも絶品です
朝から贅沢な、かますの焼き物。卵焼きやしらすも絶品です

飾らず、気取らず
ありのままの自然を楽しむ宿

宿主の伊谷ご夫妻に開業当時のことを伺うと、
以前は湯治を兼ねた旅館「葉山荘」を営んでいたとのこと。
「海椿葉山」の計画は、平成11年9月の開業から遡ること8年も前に考えていたそうです。

建築雑誌で竹原氏の作品を見たご夫妻が直接アプローチ。
当時、宿屋の設計を建築家に頼むという発想はまだ無く、
奇抜なデザインも含め周りの理解を得るのに苦労したとのことでした。

「不揃いの素材を活かす竹原氏のコンセプトが良かった。
瓦屋根もそうですが、立地の傾斜を活かした建物のレイアウト、
客室6室をそれぞれ違う左官職人にわざわざ仕事を頼むこだわり。
地元の工務店に発注していたらこの様な宿はできなかったと思います」。
13年たった今でも、当時のエピソードを満面の笑みで話してくれました。

ただ海を眺め、地の味覚に酔い、湧き出でたる湯に浸かる。
決して平凡ではなく、ここにしかない自然の恵み。
伊谷ご夫妻の思いを形にした湯宿は確かにここにありました。

『良地良宿』。
良い町があるから、良い宿屋がある。良い宿屋があるから、良い町がある。
そのような思いを体感できる素敵な湯宿でした。
ぜひ、皆さまも目いっぱいの海の景色を味わえるこの宿を、訪れてみてはいかがでしょうか。

ご主人の伊谷秀夫さん。
サロンにて海椿葉山について
ご主人の伊谷秀夫さん。サロンにて海椿葉山について
ご主人の思いを感じる。
海眺めのウッドテラス
ご主人の思いを感じる。海眺めのウッドテラス

 

(文・写真:末吉 秀典)

今月の宿屋データ
宿屋 和歌山県 紀州奥白浜椿温泉 海椿葉山
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