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宿泊予約経営研究所所長の末吉秀典が注目の宿泊施設をご紹介するこのコーナー。
今月は、「那須茶寮 雪月花」さんの体験レポートをお届けします。
日本の伝統的な美を連想させてくれる言葉、「雪月花」。
春は花
夏ほととぎす
秋は月
冬雪冴えて すずしかりけり
これは、小説「雪国」で知られる川端康成が、1968年にノーベル文学賞を受賞した時の記念講演で
「美しい日本の私」と題して引用した道元禅師の和歌です。
「春になれば綺麗な花が咲き、夏にはホトトギスが鳴き、
秋は月夜が美しく、冬は雪が降り気持ちが引き締まる」。
禅の心に通ずる日本の四季を表すこの和歌を、
川端康成は日本人の繊細な美の心を世界に伝えるために引用されたと言われています。
今回はそんな日本の侘び寂び、禅の心を形にしたいという思いから、
24年前に那須温泉に開業した「那須茶寮 雪月花」をご紹介させていただきます。
「那須茶寮 雪月花」のある那須岳の麓は、
別荘や保養所が建ち並び、近くには名門那須ゴルフ倶楽部もある閑静な場所。
1日2組の限定の隠れ宿に車で到着すると、
すぐに女将さんが笑顔で門の入口まで出迎えてくれます。
紅葉したもみじが庭の石畳の上に重なる中、
女将の先導に歩みを進めながら周りを見渡すとそこは既に晩秋。
冬の訪れが近いことを感じさせてくれます。
庭を含めた敷地には、2組のお客さまが滞在する客室と浴室、そしてお食事処と茶室という構成。
客室には「雪」「月」「花」の名称がついており、中でも「雪」は茶室を兼ねています。
今回は客室「月」に宿泊することに。
大型液晶TVとこたつが設えられた10畳の和室と、庭の眺めを楽しむ縁側。
ツインベッドルームに那須の温泉が愉しめる浴室と十分に寛げるお部屋です。
基本的に畳以外のフローリングは床暖房となっており、
寒さの厳しいこれからの季節でも快適に過ごすことができます。
特に目を見張るのは、ベッドルームからの色鮮やかな眺望。
借景を利用した大きな窓に、庭の木々と那須の南月山が四季の移ろいを映し出してくれます。
お風呂は伊豆石で敷き詰められた浅めの湯船となっており、
時間をかけて温泉に浸かり、長めの湯を愉しむことができます。
女将の代田 節さんに宿屋の始まり伺うと、元々は東京で暮らし、事業を営んでいたそうです。
しかし、ご主人の体が弱かったこともあり、別荘としてこの地を購入。
「那須には小さな隠れ宿的な旅館が少ない」との妹さんのアドバイスで
旅館を始めようと思い立ちましたが、
経営者として様々な事業を行なってきた女将さんも旅館業は初めてでした。
そこで、1日2組に限定し、禅の心でお客さまをもてなす宿屋をつくろうと思ったそうです。
「雪月花」のお料理は、全て自家製で化学調味料は一切使用しないこだわり。
献立も毎日変わり工夫を凝らしています。
同じ那須高原で息子さんが経営しているそば処の打ち立てそばも、お客さまに大変好評だそうです。
今は糀に力を入れており、敷地内に自らが糀を造る室を建てて
鮭の糀漬けや糀ジャムなどを製造し、宿泊のお客さまにも一品として提供しています。
さらには、名物女将のあんみつの製造販売や、
自らデザインした和心着を日本航空のJALショッピングで通信販売するなど、
次なる展開に積極的。なんともアイデア豊富でパワフル女将さんです。
さて、楽しみの夕食ですが、一品一品女将さんが調理をしてもてなしてくれます。
ワインもこだわりがあり、娘さんがドイツで留学の折、
美味しいワインを送ってきてくれたとのこと。
ストックされた中から女将さんオススメの白ワインをいただきながら
先付け、前菜と箸を進めていきます。
糀を使用した地鶏の照焼は、糀の甘みと鶏肉の甘みが重なり合い白ワインも進みます。
大きな白鉢に4品盛りつけられた造りは、鮮度も魚の甘みも申し分なく、納得の行く味わいです。
温かな真丈、蛤の椀がもてなされた後は、栃木黒毛和牛のステーキが目の前に。
高原レタスに配された大胆な肉料理は軟らかく、口に入れると芳醇なコクが広がります。
そして、お客さまからの評判も高い手打ちのそばが運ばれてきます。
最初は岩塩と唐辛子を少しまぶして、そばの風味を愉しみ、お好みでつゆにつけていただきます。
細めながらも、コシはしっかりとしていて歯ごたえがあり、そばの風味を堪能できました。
デザートの女将さん特製のあんみつは静岡県伊豆の上質な天草と、
沖縄県波照間の黒糖を使用したこだわり。女性ならずとも男性にもオススメの一品です。
朝食も健康に気を配ったメニューが並びます。
野菜と果物の旨みだけを抽出した絞りたてジュース、
糀を使った上質な塩鮭や卵焼きなどを美味しくいただきました。
1日2組限定の隠れ宿。女将さんの食に対するこだわりはこの宿の最大の魅力です。
リゾート地としての那須高原、上質な温泉と四季豊かな景観、そして静寂さ。
心の安らぎを繊細に演出してくれるこの湯宿に、皆さまも一度訪れてみてはいかがでしょうか。
(文・写真:末吉 秀典)
栃木県 那須温泉 那須茶寮 雪月花 |
〒325-0301 栃木県那須郡那須町湯本ツムジヶ平213
0287-76-3711 →那須茶寮 雪月花公式HP |
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お車で東北自動車道那須I.C.から那須街道を経て県道266号線経由で約25分。
電車でJR東北新幹線那須塩原駅からタクシーにて約45分。 |