【印刷用レイアウト】

宿研通信 5月号

気になる宿屋レポート 末吉が行く

宿泊予約経営研究所所長の末吉秀典が注目の宿泊施設をご紹介するこのコーナー。
今月は、 「山形県 間沢 山菜料理 出羽屋」さんの体験レポートをお届けします。

山形県 間沢 山菜料理 出羽屋

一度訪れてみたいと思っていた宿屋「山菜料理 出羽屋」。
4月の下旬に訪れた山形の山あいの郷は雪解けが進み、桜が満開を迎え、
新緑の芽吹きで輝きを増していました。

目元を遠方に移せば出羽三山の一つである主峰月山が、
青い春霞の空の中に白く残雪を湛えています。

今回は、東北の春の味覚を求めて出羽三山の麓の集落に佇む
料理宿「山菜料理 出羽屋」をご紹介させていただきます。

夕暮れに染まる
行者宿の面影を醸しだす出羽屋。
夕暮れに染まる行者宿の面影を醸しだす出羽屋。

日本人に愛され続ける
“山菜料理”のルーツ

“山のものは、じぶんたつだけが
くうやつだと思っていたんだども
お客さんがわざわざ来て
んまえんまえゆて
よろこんでけるなて
ありがたいことだなっす。”

こちらは、山菜料理の名付け親でもある出羽屋先代の佐藤 邦治氏の言葉。

私たちにとって山菜料理とは、
季節を感じさせる自然の料理であり、ヘルシー志向、
また現在ではスローフードとしても注目されています。

「今では当たり前のように思える山菜料理は、昔はただの山のものであり、
名もなきただの食べ物でした。」そう語る女将の佐藤 明美さん。

当時、山で採れる山菜は飢えをしのぐための糧物であり、
量を増やし腹持ちを良くする材料に過ぎなかったとのこと。

それが山菜料理として、現在の美味しい料理に昇華していった理由は、
先代の山菜料理へのこだわりと出羽屋の立地環境にあったそうです。

ここ間沢は大正時代に鉄道が開通(現在は廃線となっている)して以来、
月山へ登る修験者のための行者が集う宿坊町として栄えました。

海からも離れ、冬の間は雪深く閉ざされるこの地域では
必然的に山菜を中心にしたお惣菜を提供するしかなかったそうです。

せっかく遠路はるばる来られる行者の皆さんに、
少しでも喜んでいただける料理を出すための創意工夫がなされ、
今日の山菜料理としてお客さまに喜んでいただけるようになったとのことです。

こうして生まれた
「山菜料理」という言葉を初めに使ったのは、出羽屋だったそうです。驚きですね。

昔ながらに女将・スタッフの挨拶が似合う
フロントロビー。
昔ながらに女将・スタッフの挨拶が似合うフロントロビー。
からかい煮など
出羽屋オリジナルの特産・県産が揃う土産処。
からかい煮など出羽屋オリジナルの特産・県産が揃う土産処。

木の温もりと提灯の明かりが
旅人の心をホッとさせる館内。
木の温もりと提灯の明かりが旅人の心をホッとさせる館内。
BGMが流れ大きな窓から庭園が望める
朝食会場「もみじ」。
BGMが流れ大きな窓から庭園が望める朝食会場「もみじ」。

細やかなおもてなしが生む
安らぎの空間

出羽屋は六十里越街道の筋近くに立地しており、
日中は山菜・そば料理の食事処として多くの観光客、地元のお客さまで賑わっていました。

外観は歴史を感じさせる木造の門構えが特徴的で
「山菜料理出羽屋」の看板が目をひきます。

建物は3階建てとなっており、日本庭園を囲むように11の客室と宴会場が配置。
1階にはフロント、土産処、食事処、宴会場があり
3階にある月山の自然水を愉しめる男女別の浴場は、
昔ながらのシンプルな浴槽ながら、身も心も安らぎ温まります。

シンプルながら採光豊かな
ゆったりとした浴場。
シンプルながら採光豊かなゆったりとした浴場。
お湯は体に優しく温まる
月山の自然水です。
お湯は体に優しく温まる月山の自然水です。

カラフルな綿棒は
女将さんの茶目っ気です。
カラフルな綿棒は女将さんの茶目っ気です。

今回私が宿泊した客室は「鳥海」。
広さは8畳ながら街道筋を眺める広縁もあり、二人連れであれば十分に寛げる空間です。

女将さんの心配りを感じさせる旅の小箱(裁縫道具・薬など)なども、
浴衣・アメニティと一緒に添えられていました。

また、風呂上がりの後、食事までの間に備え付けの
先代の佐藤邦治著書の「出羽屋の山菜料理」は大変に興味深い内容で、
様々な山菜の調理法や魅力あるビジュアル写真とともに
先代のコメントを含め紹介されており非常に参考になりました。

木の格子扉の陰影が
癒しを感じさせる客室の入口。
木の格子扉の陰影が癒しを感じさせる客室の入口。
二人連れで語らい合う
閑静な趣きある和の空間。
二人連れで語らい合う閑静な趣きある和の空間。

間沢の田舎町を眺め
二人連れで時を過ごす広縁。
間沢の田舎町を眺め二人連れで時を過ごす広縁。
女将さんの気遣いが
感じられる「旅の小箱」。
女将さんの気遣いが感じられる「旅の小箱」。

出羽屋の山菜料理の全てが詰まった
貴重な山菜料理の参考書。
出羽屋の山菜料理の全てが詰まった貴重な山菜料理の参考書。

1年中楽しめる
こだわりと伝統の山菜料理

すっかり日も暮れ、夕食の食事処へ。
女将さん曰く、間沢の地の山菜のシーズンには時期がまだ早く、
5月中旬から6月頃が一番いいそうです。

今の時期は山形県産の旬の山菜を仕入れてきているとのこと。
お料理のコースは全部で16品。お客さまの評判通り見事に山菜づくしのお料理でした。

まずは果実酒として3種類。
コクのある「山ぶどうジュース」に香りが独特な「こくわ酒・またたび酒」を
3種類のぐい呑みでそれぞれいただきます。

既にテーブルには色鮮やかなこごみ・葉わさび・しどけ・木の芽・うるいといった
山菜のおひたしと行者にんにくの酢醤油、わらびの一本漬けなど
様々な山菜料理が並んでいました。

山菜料理に合わせた出羽屋オリジナルの日本酒と共に春の彩りを一品一品箸にとりいただきます。
山菜本来の苦みと旨みそして瑞々しい食感に思わず笑みがこぼれます。

山菜ひたしの盛り合わせを初めとした
自慢の春の山菜料理コース。
山菜ひたしの盛り合わせを初めとした自慢の春の山菜料理コース。
こごみに葉わさび、しどけ、木の芽、
うるい、こごみはどれか分かりますか?
こごみに葉わさび、しどけ、木の芽、うるい、こごみはどれか分かりますか?

蕗のとう・タラの芽、春の薫りがたつ
山菜のサクサク天麩羅。
蕗のとう・タラの芽、春の薫りがたつ山菜のサクサク天麩羅。

お料理が運ばれてくるたびに説明を受けますが、馴染みがない山菜もあり興味津々。
天麩羅は揚げたての蕗のとう・タラの芽・こごみ・まいたけをサクサクといただきます。

唯一魚料理として鮎の焼き物。菊とキクラゲの酢くるみ和えやむきそばのお雑炊などなど
繊細で優しい味わいの料理が続きます。

締めは出羽屋名物の鍋であるその名も山菜なべ。
きのこや山菜の具が鉄鍋にふんだんに入っておりコンロで温めていきます。

素材の持ち味を活かした山汁は、思いの外つるりと喉を通り過ぎてゆき、
本当に満足できる山菜三昧の料理コースでした。

宿の看板に偽りなしです。

お口直しにと言わんばかりの料理の中で
唯一の鮎の焼き魚料理。
お口直しにと言わんばかりの料理の中で唯一の鮎の焼き魚料理。
山菜にきのこの具材がたっぷりの
出羽屋名物「山菜なべ」。
山菜にきのこの具材がたっぷりの出羽屋名物「山菜なべ」。

山菜料理に合わせた
出羽屋オリジナルの日本酒。
山菜料理に合わせた出羽屋オリジナルの日本酒。

山のものをお客さまに満足していただくために
様々な工夫と細かな仕込みがなされている山菜料理。

私たちの期待に応え全国でも珍しく年間を通した山菜料理専門の宿屋として、
先々代からの山菜に対するこだわりと努力が料理を通して体感できた貴重な1日となりました。

ぜひ、皆様も一度訪れてみてはいかがでしょうか。

朝もやはり山菜から。
山菜のサラダが印象的な出羽屋の朝食。
朝もやはり山菜から。山菜のサラダが印象的な出羽屋の朝食。
山菜料理と初めて謳った
美味山菜の出羽屋。
山菜料理と初めて謳った美味山菜の出羽屋。

(文・写真:末吉 秀典)

今月の宿屋データ
宿屋山形県 間沢 山菜料理 出羽屋
所在地・連絡先
宿泊予約サイト
  →楽天トラベル   →じゃらんnet
アクセス