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宿研通信 8月号

気になる宿屋レポート 末吉が行く

宿泊予約経営研究所所長の末吉秀典が注目の宿泊施設をご紹介するこのコーナー。
今月は、 「新潟県 大沢山温泉 natural inn 自遊人」さんの体験レポートをお届けします。

新潟県 大沢山温泉 natural inn 自遊人

5月の中旬、東京から約70分。
全長22.2kmと長く続く大清水トンネルを抜けると
列車は直ぐに越後湯沢駅に到着します。

川端康成著「雪国」の冒頭「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」
の舞台でもある越後湯沢は私にとっても思い出深い場所です。
幼い子供の頃から冬はスキーでお世話になり、
社会人になってからはGALA湯沢スキー場のリゾート開発に携わり、
館内インフォメーションシステムの企画・運営のため、
一冬ずっと現地に常駐している時期もありました。

改札を抜け懐かしい駅前にてレンタカーを借り、
車をコシヒカリの産地で有名な南魚沼地区石打・塩沢方面に進めると
既に周りでは残雪が残る越後の山並みを背に
田植えの準備である代掻きが始まっていました。

今回は南魚沼市の大沢山温泉、
雑誌「自遊人」編集長でもおなじみの岩佐十良さん、
自らがプロデュースする注目の湯宿
「natural inn 自遊人」をご紹介させていただきます。

残雪を抱く越後の山々の裾野に
南魚沼の田園が広がります。
残雪を抱く越後の山々の裾野に南魚沼の田園が広がります。
宿周辺の棚田も間もなく
田植えの時期を迎えます。
宿周辺の棚田も間もなく田植えの時期を迎えます。

覆面訪問者が蘇らせた
世界に誇る日本の宿屋。

岩佐さんとは今年7月3日に横浜ベイホテル東急にて開催された
「宿研キズナサミット2013」において基調講演を引き受けていただいたことがご縁で、
当日は岩佐さんの食に対するこだわりのトークに
来場された方々も熱心に聴き入っておられました。

また、岩佐さんの著書「一度は泊まりたい有名宿覆面訪問記」は“本音”がテーマで、
ご自身の身分を明かさずに宿屋に宿泊、実体験の本音レポートはとても興味深いものです。
私の「末吉が行く!」も本音で勝負しているつもりですが…。

さて話を戻して、「natural inn 自遊人」は
2012年5月に元々あった大沢山の温泉旅館「高七城」を引き継いで改装、
誰でも気軽にのんびりと自分のスタイルで過ごす空間造りを
コンセプトにしているとのことです。

調べてみると自遊人のホームページでは
改装を済ませた一部の施設でプレオープンしている事を知り、
いてもたってもいられずそのまま予約させていただきました。
もちろん岩佐さんにはお知らせせずに。つまり、覆面訪問となる訳です。

国道から県道に車を進め、大沢山温泉を目指し山道を登っていきます。
目指す湯宿は、樹木で囲われた奥まった場所にあり、
突如堂々とした古民家の建屋が出迎えてくれます。

事前に改装中であることは知らされていましたが、
建屋の周りには建築資材がまだ積まれており、ちょっと心配になりましたが
玄関の重厚な扉が開くと一転して目の前に太い梁と柱が
組み合った高さを感じる吹き抜けのモダンな空間が広がります。

築150年の古民家に
現代アートデザインが調和するエントランス。
築150年の古民家に現代アートデザインが調和するエントランス。
デザイナーズチェアで寛ぐ
中二階にあるラウンジ「ほぞ-hozo-」。
デザイナーズチェアで寛ぐ中二階にあるラウンジ「ほぞ-hozo-」。

チェックインを済ませ、本日宿泊する洋室303号室へ。
無垢な白木でコーディネイトされた洋室はツインベットの寝室とリビングの空間、
そしてワークカウンターとシンプル。
ソファ・デスクチェア・デスクライトは全てデザイナーズファニチャーで設えられています。

改装中のため、完成した客室は全部で6室、最終的には14室となるそうです。
アメニティは、肌に優しいと評判の松山油脂が備えられていてこだわりを感じます。
館内は、ロビーの中二階にあるラウンジ、ダイニング、男女別湯処と露天風呂の構成。
中二階のラウンジでは有名なデザイナーズチェアに腰掛け、
コーヒーを飲みながら好きな書籍やネットを愉しむことができます。

美大出身の心を擽る
お手製の部屋サインボード。
美大出身の心を擽るお手製の部屋サインボード。
扉の向こうにあるのは
自分だけの・・・。
扉の向こうにあるのは自分だけの・・・。

自遊人のこだわりが良く伝わる
備え付けのガイドブック。
自遊人のこだわりが良く伝わる備え付けのガイドブック。
ホワイトとウッドを基調とした
別荘感覚の優しい空間。
ホワイトとウッドを基調とした別荘感覚の優しい空間。

簡潔なウッドの香りに包まれた
安らぎの洋室ツイン。
簡潔なウッドの香りに包まれた安らぎの洋室ツイン。
ロゴ入りのタオル。
アメニティにもこだわりが。
ロゴ入りのタオル。アメニティにもこだわりが。

湯処「天の川」は特徴的な泉質でした。
無色透明ですが肌がヌルヌルとした感触を楽しむことができます。
体が程良く温まったところで、鳥のさえずりに誘われ、外の露天に浸かれば、
目の前に遠く巻機山と漂う雲をただただ望む開放的な情景が広がっています。

山の湯宿の情緒を感じさせる
湯処「天の川」。
山の湯宿の情緒を感じさせる湯処「天の川」。
無色透明ですがヌルヌルとした
感触が楽しめる特徴的な温泉。
無色透明ですがヌルヌルとした感触が楽しめる特徴的な温泉。

目の前にあるのは森と山と空。
視界爽快の露天風呂。
目の前にあるのは森と山と空。視界爽快の露天風呂。
肌に優しいこだわりの
松山油脂社製のアメニティ。
肌に優しいこだわりの松山油脂社製のアメニティ。

世界中の人々に食べさせたい
日本の食。

さてお楽しみの夕食です。
予約時間に合わせダイニング「早苗饗(さなぶり)」へ向かう途中、
ロビーで何と岩佐さんが私を迎えてくれました。

実は私が本日宿泊することは既にご存じだったそうです。
予約者名が私の名前だったのでスタッフの方が気がついたとのこと。
当たり前と言えば当たり前ですが覆面訪問は大失敗です。

本日は事前の予約で「早苗饗コース」に。
まずは先付として3品。
冬の間、雪の下に寝かすことで甘みを増す色鮮やかな雪下人参のムースに野菜だしのジュレ、
自家製のふき味噌に地物のそば粉で作ったガレット、
朝獲れの山菜おひたしから始まります。

ところで、レストランや料理コースの名称となっている「さなぶり」の意味ですが、
田植えが終わった後に豊年祈願に合わせ人々にもてなす馳走のことを指すそうです。
秀逸と気づかされたのは日本酒の利き酒。
何が秀逸なのかと言うとお料理に合わせて、
魚沼のテイストの違う地酒を出していただけるというサービスです。
手間のかかる事ですがお客さまからは好評とのことです。

次に春の芽吹きを味覚で感じる採れたての山菜と魚沼産のお米で作っためんを
しゃぶしゃぶにしていただきます。
続いて、大根の甘みに大葉の香りと生姜の風味を添え
お餅の歯ごたえが味わえる大根もちのミルフィーユ、
野菜ソースでいただく6種の野菜のせいろ蒸し。

砂糖を使わず素材の甘みを活かした
ジュレと先付。
砂糖を使わず素材の甘みを活かしたジュレと先付。
春の旬菜に添えるのは
魚沼のお米で作った米粉めん。
春の旬菜に添えるのは魚沼のお米で作った米粉めん。

雪室で一冬寝かせた大根を用いた
大根もちのミルフィーユ仕立て。
雪室で一冬寝かせた大根を用いた大根もちのミルフィーユ仕立て。
6種の野菜をせいろ蒸しにして、
人参の特製ソースにつけて。
6種の野菜をせいろ蒸しにして、人参の特製ソースにつけて。

と、野菜に次ぐ野菜。
ほんのり優しいそれぞれ違う野菜の味を自分の舌で
一生懸命に確かめながら出された料理をありがたくいただくことも久しぶりです。

ここで口直しににいがた和牛の自家製ローストビーフが饗され一息。
最後に自慢の炊きたてコシヒカリのご飯と
自家製の天然醸造のお味噌汁をいただいて満腹状態です。

徹して無農薬・有機野菜を主体とした素材の食感と旨みを巧みに調理。
一品一品こだわり方をスタッフから伺い思わず感服してしまいました。

醤油の下味に効いている
自家製の和風ローストビーフ。
醤油の下味に効いている自家製の和風ローストビーフ。
炊きたての魚沼産コシヒカリと
天然醸造の味噌汁。
炊きたての魚沼産コシヒカリと天然醸造の味噌汁。

地元酒造「鶴齢」の酒粕で作った
チーズケーキとりんごゼリー。
地元酒造「鶴齢」の酒粕で作ったチーズケーキとりんごゼリー。
一品一品味わいながらいただく
上質な田舎料理の朝食。
一品一品味わいながらいただく上質な田舎料理の朝食。

翌朝は朝食前に、少し宿屋周辺の山道、田んぼ道を一人で散策してみました。
時折、農家の方の車とすれ違う以外何もない所です。

ただ何か田舎に来て、野菜料理の魅力に触れられることに感謝して、
自分の時間を愉しむことができる。
そんな宿屋を目指されているのかも知れません。
正式なオープンは2013年10月19日だそうです。
ぜひ、皆様も一度行かれてみてはいかがでしょうか。

たまにしか車が通らない
山の散策道。
たまにしか車が通らない山の散策道。
散策道の周りを気にしてみると
自然の息吹を感じられます。
散策道の周りを気にしてみると自然の息吹を感じられます。

(文・写真:末吉 秀典)

今月の宿屋データ
宿屋新潟県 大沢山温泉 natural inn 自遊人
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