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宿泊予約経営研究所所長の末吉秀典が注目の宿泊施設をご紹介するこのコーナー。
今月は、 「埼玉県 柴原温泉 手打ちそばの宿 柳屋」さんの体験レポートをお届けします。
年の暮れが押し迫った頃、
埼玉県エリアを担当している運営スタッフから
お客さまのクチコミで手打ち蕎麦と里山料理が大変評判の
良い小さな湯宿があるのでぜひ訪問して欲しいとのこと。
「小さな湯宿でお客さまから支持されるポイントは何なのか?」
大変興味深い話だったので、
早速、秩父にある湯宿に宿泊することに。
秩父と言えば首都圏からも比較的近く、
春は芝桜、夏から秋にかけては長瀞の渓谷。
また三峯神社を代表とする神社仏閣も数多く点在し、
日本三大曳山祭りの一つである師走の秩父夜祭りなども
大変有名な観光エリアです。
今回は秩父七湯のひとつとされる
柴原温泉の湯宿「手打ちそばの宿 柳屋」を
ご紹介させていただきます。
予約サイトのお客さまのクチコミを拝見すると
「鄙びた・隠れ宿感・穴場・ホッとする感覚・
自然の音だけが聞こえる」などのキーワードが並び、
山間の閑静な場所に立地していることを感じさせます。
実際に車で訪れてみると、
およそ湯宿がある気配を感じさせない田畑が広がる農道を走り、
次第に狭まる山間の道をさらに奥に進むと
沢の伝いに柳屋の建屋が現れます。
駐車場から玄関に向かいまず見えるのが
いかにも古い木造3階建ての建屋です。
こちらは今は使用していないそうですが
昔の柳屋の旧館で今から140年前の江戸末期の建物だそうです。
柳屋は和室の客室が12部屋に
男女別の露天風呂と内湯のお風呂場、
食事処に囲炉裏が据えられた
エントランスロビーの構成となっており、
小規模な湯宿がその当時から湯宿として
営まれていたことがわかります。
ご挨拶を済ませ、本日宿泊する「やまぼうし」の客室へ案内されます。
客室は鶯色の壁面が落ち着きを感じさせる
14畳のゆったり空間と雪見障子で仕切られた広縁付きの和室。
早速、浴衣に着替え、露天風呂の「白美身の湯」へ向かいます。
木小屋風の露天風呂は男女別に分かれており、
温泉はほのかに硫黄の香りがする鉱泉(冷泉)です。
また、飲泉することで胃腸にも良いとされており、
泉質の良さがお客さまからも大変好評です。
湯気漂う木組みの湯船と山の木々の香りが心身共に癒されます。
湯温も丁度よく内湯のお風呂も含め長湯を愉しむことが出来ました。
温泉で寛ぎ、客室に戻りウトウト微睡んでいると夕食の時間に。
隣のお部屋で食事をいただきます。
お料理は自家製手打ち蕎麦も含め10品のコース。
先付は紅鱒の押し寿司にわらび煮、虹鱒の甘露煮。
わらび煮は春に芽が出たものを摘み、
樽の中で塩漬けにして長期保存しているそうです。
そのわらびを湯掻いて味付けをして
地道に手間をかけて調理してお出ししているとのこと。
柳屋のお料理は、既製品は一切使用せず手造りであること、
飾らないこと、その分細かく手間暇を惜しまないこと。
それこそが『秩父の山の恵みを届ける宿屋』。
柳屋の専務でもあり調理人でもある
黒澤政史さんが大事にしている思いです。
次に岩女の塩焼きに茶碗蒸しが続き、お造りは地物の鯉の洗い。
鯉特有の臭みがないのはもちろん、
トロッと脂が乗っていて辛子酢の味噌と合います。
他でも淡泊な鯉の洗いをよくいただきますが、
今回は鯉の脂を残して身がトロッとしていたのは驚きで、
とても鯉の刺身とは思えませんでした。この鯉の洗いは絶品です。
鍋物はこの季節に合う天然の猪鍋。
秩父の郷土鍋料理でもある猪の脂身はコラーゲンがたっぷり含まれており、
女性の方にも大変喜ばれているとのことです。
天然のコクと少し歯ごたえのある猪肉が体を温めてくれます。
そして、いよいよ自家製手打ちの蕎麦の登場です。
午前中にその日の必要な分量だけ手打ちして拵えているそうです。
蕎麦好きには堪らない打ち立ての蕎麦は
香りものど越しも良く1人前の盛りもさらりといただけました。
最後に揚げ物と椎茸・舞茸の釜飯にデザートです。
さすがに此処まで来ると食べきれないお客さまも多いらしく、
残った釜飯をおにぎりにして夜食として出していただけるそうです。
この辺のちょっとした心配りがお客さまのハートを掴んでいる様子。
朝食も夕食と同様に手造りの蒟蒻、だし巻き玉子、
女将の漬ける漬け物などお料理が並びます。
特段に飾るところはありませんが、
それ故に調理人の秩父の山の恵みの
こだわりを提供する心意気に気づかされます。
お客さまのクチコミで、蕎麦を含めたお料理や温泉の泉質だけでなく、
ご主人を初めスタッフの対応も高く評価されています。
専務の黒澤さんの思いである『秩父の山の恵みを届ける宿屋』。
地の調理にこだわり、素朴な温かい人柄、
鄙びた温泉宿と称される閑静な山間の風情を大切に守り続けています。
柳屋はご家族で経営されている小規模な湯宿ですが
何度でも訪れたくなる希少な宿屋と感じました。
皆様も一度お出かけになってみてはいかがでしょうか?
(文・写真:末吉 秀典)