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宿研通信 5月号

気になる宿屋レポート 末吉が行く

宿泊予約経営研究所所長の末吉秀典が注目の宿泊施設をご紹介するこのコーナー。
今月は、 「岐阜県 料理旅館 奥飛騨山草庵 饗家」さんの
体験レポートをお届けします。

岐阜県 料理旅館 奥飛騨山草庵 饗家

ゴールデンウイークが終わった朝の新横浜駅、
下りの新幹線ホームでは観光客から
修学旅行の学生たちへと主役が変わっていました。
わずか10分ほどの間に修学旅行専用の団体臨時列車が
2本立て続けに到着し、学生グループを乗せて慌ただしく出発していきます。

私も後を追うように、のぞみ号でまずは名古屋に向かいます。
名古屋からは在来線のディーゼル特急ワイドビューひだ号に乗り換え、一路高山へ。
独特のディーゼル音を響かせながら快調に東海道本線、
そして途中岐阜駅で進行方向を逆に変え、
山間を縫うように高山本線を疾走していきます。

小京都として名高い飛騨高山は
既に新緑に覆われ心地の良い季節を迎えていました。
駅前でレンタカーを借りて本日の宿泊する湯宿へ向かいます。

今回は、1日5組限定のおもてなしを謳い、お客様からの評価も高い料理旅館、
『奥飛騨山草庵 饗家』をご紹介させていただきます。

丁寧なもてなしに
心安らぐひととき

饗家は2007年に当時ペンションだった施設を改装して開業したそうです。
客室を中心とした母屋と食事処・貸切露天風呂を中心とした
山草庵とに分かれており、客室はわずか5室。

その他に癒やしの休み処として喫茶ギャラリーと足湯コーナーがあります。
木枠のガラス戸を開け中に入るとお香の香りが漂う料亭の趣。
畳敷きの廊下に沿いながらロビーに案内していただきます。
客室と思わせるロビーでお茶とお菓子のおもてなしを受けチェックインします。

畳敷きと上質なお香が薫る静寂の空間が
饗家の中へ誘います。
畳敷きと上質なお香が薫る静寂の空間が饗家の中へ誘います。
素足で歩きたくなる館内の廊下は
全て床暖房の畳敷きです。
素足で歩きたくなる館内の廊下は全て床暖房の畳敷きです。

ご主人がデザインした客室を思わせる
受付のラウンジ。
ご主人がデザインした客室を思わせる受付のラウンジ。
設えられた家具が
飛騨路の宿屋を感じさせてくれます。
設えられた家具が飛騨路の宿屋を感じさせてくれます。

山草庵へ向かう途中にある
洒落た喫茶ラウンジ。
山草庵へ向かう途中にある洒落た喫茶ラウンジ。
飛騨の山並みが借景となる
ディスプレイで一休み。
飛騨の山並みが借景となるディスプレイで一休み。

本日宿泊する客室は「蛍ぶくろ」。
和室8畳の二間と次の間にロフトが付いた古民家風の客室です。
少々急なはしごを登ると、畳敷きの大人の隠れ家が出現。
子供時分を思い起こさせる、少しわくわくする空間です。

その他の客室も全てタイプが違っており、ロフト付の和室がもう1部屋、
和室のタイプが2部屋、ダブルベッドのタイプが1部屋で計5室となっています。
どの客室も古民家の意匠デザインが異なり心安らぐ空間となっています。

和の灯りと梁が古民家の風情を醸し出す
「蛍ぶくろ」の和室。
和の灯りと梁が古民家の風情を醸し出す「蛍ぶくろ」の和室。
高い天井の空間が
どことなく安らぎを与える和室。
高い天井の空間がどことなく安らぎを与える和室。

はしごを登ると
そこは大人の隠れ場所。
はしごを登るとそこは大人の隠れ場所。
お夜食として饗される
鱒の風味が豊かな押し寿司。
お夜食として饗される鱒の風味が豊かな押し寿司。

次に、温泉が楽しめる4種類の貸切露天風呂へ。
貸切風呂は母屋に「宝の湯」「檜の湯」と山草庵に「陶の湯」「岩の湯」とあり、
それぞれ内湯と露天風呂に分かれています。
山草庵にあるお風呂の方が広くゆったりとした造りとなっています。

温泉は無色透明の多少硫化水素臭がする単純泉。
癖もなく奥飛騨の山風が温泉で温まった体を冷ましながら
いつまでも愉しめる貸切風呂でした。
風呂上がりにさらに嬉しいことが、
山草庵の入口に山水で冷やされた飛騨の牛乳が無料で味わえるサービス。
コクと甘みのある牛乳を一気に飲み干します。

山風が心地よい大きな岩で組まれた
「岩の湯」の露天風呂。
山風が心地よい大きな岩で組まれた「岩の湯」の露天風呂。
御影石と木の温もりのコントラストが美しい
「岩の湯」の内湯。
御影石と木の温もりのコントラストが美しい「岩の湯」の内湯。

新緑で鮮やかな露天風呂は
太い檜の木枠が特徴の「陶の湯」。
新緑で鮮やかな露天風呂は太い檜の木枠が特徴の「陶の湯」。
湯面に映る山並みが美しい
直径180cmもある信楽焼のお風呂。
湯面に映る山並みが美しい直径180cmもある信楽焼のお風呂。

150年前の民家を
移築して改装した山草庵。
150年前の民家を移築して改装した山草庵。
山の草庵には
ご主人のもてなしの心が詰まっています。
山の草庵にはご主人のもてなしの心が詰まっています。

土間の雰囲気を再現した
食事処の入口。
土間の雰囲気を再現した食事処の入口。
ケヤキの古材の梁組と
囲炉裏の空間が心地よい食事処。
ケヤキの古材の梁組と囲炉裏の空間が心地よい食事処。

山草庵入口横にある
清水で冷やした無料の飛騨牛乳。
山草庵入口横にある清水で冷やした無料の飛騨牛乳。
足湯に浸かりながら
夕暮れる飛騨の山並みを愉しみます。
足湯に浸かりながら夕暮れる飛騨の山並みを愉しみます。

アイデアが光る
郷の味

夕刻、再び山草庵の食事処へ移動します。
お客様からも大変評判の高い饗家自慢の新・奥飛騨懐石料理。
ご主人の江間敦さん曰く「饗家は奥飛騨らしい
旬材を使った創作コース料理を饗する宿。
素朴な地材と伝統的な郷土の料理を
新しい発想と演出でどうお客様に伝えていくか、
最後の料理までストーリーが大切だと考えている」とのこと。

食でお客様をもてなすことを大事とされている
ご主人の気持ちが伝わってきます。
コース料理は全部で12品。
山里の春と謳われたもてなしの料理が始まります。

まずは食前酒として山ぶどう酒。
前菜は春の幸、蕨の煮こごりの上に湯葉をあしらったクリーム掛けと
砂肝と菜の花和えに蜂蜜レモンのマスタード添え。
椀物は百合根の真丈と山蕗のすまし汁。
続けて造りとして、鮮やかな川鱒と岩魚の刺身に山菜。

ガラスのコップには不思議な透明の泡が添えられています。
これはスダチの果汁を泡にしたもの。
刺身に添えて塩田麩と共に薫りを味わいます。

次にお品書きに示されたお料理は、
春キャベツのお寿司に新タマネギの春巻き。
料理が出てくる前からどのような料理かと、
いろいろと想像を掻き立てられ楽しめます。

焼物は分厚い飛騨牛の炭火焼と岩魚の塩焼きに
山菜の天麩羅と豪華三昧。
肉汁を含む柔らかな飛騨牛の炭火焼は
奥飛騨に来たお客の期待を裏切りません。

いただくどの料理も感動する内容でしたが
私が一番感動したのは次の料理です。

冷やした茶碗蒸しですが器を取ると
香ばしいスモークの薫りと共に煙が漂います。
燻製の煙を器に閉じ込め饗されます。
煙だけでなくスープにもしっかりと燻製の薫りが入っており
手の込んだ演出がコース料理終盤に花を添えていました。

新じゃがの餡掛け饅頭とセリの桜葉ご飯に
デザートをいただいて終了です。
料理の量も程良く、最後まで美味しくいただくことができました。

翌日の朝食も夕食と同様にコース料理仕立てとなっておりますが、
手作りの豆腐や朴葉味噌、鮎の一夜干し、
五平餅などこちらは飛騨の郷土を満喫させる内容となっていました。

宿名でもある饗家。まさに食でお客様をもてなし、郷を食する家。
ご主人の宿屋に対する思いが料理を通してお客様にそのまま伝わる宿屋でした。
皆様も一度お出かけになってみてください。

山ぶどう酒に蕨の煮こごりと
湯葉のクリームを添えた前菜。
山ぶどう酒に蕨の煮こごりと湯葉のクリームを添えた前菜。
泡に仕立てたスダチの香りを味わう
川鱒と岩魚、山菜の造り。
泡に仕立てたスダチの香りを味わう川鱒と岩魚、山菜の造り。

春キャベツのお寿司って
想像つきますか?
春キャベツのお寿司って想像つきますか?
炭火の力でサッといただく飛騨牛は
旨み柔らかともに最高です。
炭火の力でサッといただく飛騨牛は旨み柔らかともに最高です。

岩魚の塩焼きは
囲炉裏の炭火で焼き上げています。
岩魚の塩焼きは囲炉裏の炭火で焼き上げています。
飛騨の地物の山菜天麩羅を
岩塩をまぶしていただきます。
飛騨の地物の山菜天麩羅を岩塩をまぶしていただきます。

燻製の煙を器に閉じ込め饗される
冷やし茶碗蒸し。
燻製の煙を器に閉じ込め饗される冷やし茶碗蒸し。
朴葉味噌や五平餅をはじめとした
郷土料理色豊かな朝食。
朴葉味噌や五平餅をはじめとした郷土料理色豊かな朝食。

(文・写真:末吉 秀典)

今月の宿屋データ
宿屋岐阜県 料理旅館 奥飛騨山草庵 饗家
所在地・連絡先
宿泊予約サイト
  →じゃらんnet  →楽天トラベル →一休.com
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