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宿研が行く:大分県 由布院 玉の湯

気になる宿屋レポート 宿研が行く

宿泊予約経営研究所所長の末吉秀典が注目の宿泊施設をご紹介するこのコーナー。
今月は、「由布院 玉の湯」さんの体験レポートをお届けします。



「由布院 玉の湯」

宿泊施設さまの集客支援として少しでもお役にたてる情報が提供できれば、
という思いで昨年の6月にこの「宿研通信」はスタートしました。
気づきをテーマにした気になる宿屋レポート「宿研が行く!」も、
おかげさまで全国14の宿屋をご紹介させていただくことができました。

この1年間を振り返ると、日本経済が復調しはじめ、
国内レジャーも少しずつ明るさを取り戻しつつあった矢先に、3月11日の東日本大震災の発生。
宿泊業界も多大な影響を受け、地域を代表する老舗旅館、ホテルの廃業などが相次ぎ、
先が見通せない状況が続いています。
お話させていただく経営者の方からも、この先どのような宿屋をめざしていけばいいのか、
と問いかけられることも多くなりました。

そこで今回は、大分県由布院温泉の玉の湯の代表取締役である桑野和泉さんとの対談を
ご紹介させていただきたいと思います。
桑野さんは湯布院の町造りに深く携わってこられた方で、
宿と地域のつながりを大事にされてきた方でもあります。
これからの玉の湯について、これからの日本の宿のあり方についてを語った内容は、
皆さまがどう進んでいくかの道しるべともなるのではないか、と考えています。

禅寺の保養所としてスタートした
自然あふれる宿屋

玉の湯は、昭和28年に禅寺の保養所としてスタートしました。
昭和50年に全面改装を経て、現在約3,000坪の敷地に居を構えています。
離れ形式の全18の客室、山里料理が楽しめる葡萄屋、本格的なカクテルを嗜むニコルズ・バー、
男女別露天付浴場といった施設で構成されております。

雑木林に囲まれた、やわらかな木漏れ日と涼風が心地よい談話室や、
ティールーム・ニコルのテラスなど、パブリックスペースも充実しています。

 

オーダーメイドな時間を
予感させる散策道

オーダーメイドな時間を予感させる散策道
ゆらぐ木漏れ日が心地よい
ティールーム・ニコル

ゆらぐ木漏れ日が心地よいティールーム・ニコル

 

お客さまから好評なのが
スタッフのおもてなし

お客さまから好評なのがスタッフのおもてなし
テラスにて小鳥のさえずり・
風のささやきを愉しむ

テラスにて小鳥のさえずり・風のささやきを愉しむ

 

客室には全室かけ流しの風呂が備えられ、贅沢すぎるくらいのゆったりとした空間が広がります。
常にあふれ出る無色透明な源泉かけ流しの外風呂は、肌に優しい上質な湯。
湯に浸かりながら眺める雑木林から流れ込む風を受けると、
つい「ふう~っ」と声を漏らしてしまいます。

ゆったり静けさを愉しむ玉の湯の和空間
ゆったり静けさを愉しむ玉の湯の和空間
開放的な源泉掛け流しの内風呂
開放的な源泉掛け流しの内風呂
湯・緑・木・石が見事に調和した
モダンなお風呂

湯・緑・木・石が見事に調和したモダンなお風呂

 

お客さまから評判のお食事は、夕食も朝食も地産地消をモットーにした食材と献立。
一品一品のお料理に、地元の野菜が彩りを添えています。
良い宿屋には、必ずお野菜を多用した調理を行っている、というのが私の持論ですが、
玉の湯も例外ではないようです。

最後に特筆すべきは、チェックインが13時であるのに対し、チェックアウトが12時である点。
1日中、玉の湯の魅力を楽しむことができるようになっています。

上質な由布院の源泉が
雑木林の彩りに華を添える

上質な由布院の源泉が雑木林の彩りに華を添える
彩りも鮮やか
旬の山菜等の盛り合わせ

彩りも鮮やか旬の山菜等の盛り合わせ
水面の煌めきを彷彿させる
お刺身・大分の海川の幸

水面の煌めきを彷彿させるお刺身・大分の海川の幸
野菜の旨みを堪能する
田舎風煮物

野菜の旨みを堪能する田舎風煮物

良い町と良い宿屋の、
お互いがお互いを支えあう関係

そんな玉の湯を創ってこられた桑野さんに、
これからの玉の湯、そして日本の宿屋についてお話を伺いました。

* * *

──これまで、玉の湯はどうやって発展してこられたのでしょうか?

玉の湯は、湯布院の町とともに発展してきました。
澄んだ空気、見渡せば溢れる緑、静かな空間。
湯布院は、保養地としてのプライベートを愉しむ温泉の里です。
玉の湯も同じく、雑木林を創り、光溢れる空間
そしてプライベートな時間を過ごすスペースを創ってきています。

お客さまとのつながりを創るため、
ちょっとした空間に立ち止まって過ごせる仕掛け創りも町全体で行ってきました。
具体的には、宿屋だけでなくレストランやショップのちょっとした空間に、
椅子や水飲み場などパブリックスペースを設置すること。
そこに留まっていただき、お客さまと湯布院の地とのつながりを創るということです。

玉の湯もその役割を担ってきました。
その地とつながることで、そこで過ごす時間を愉しむことができる。
それが由布院の魅力の一つだと考えています。

──今後はどのような展開を考えておられますか?

これからは、玉の湯自身としてもっとゆっくりできる空間を提供していきたいと考えています。
一人旅のお客さまにも心安らいでいただけるよう、
パブリックスペースに、もっとこだわっていきたいですね。

──これからの日本の宿屋は、どういったことを意識していけばよいでしょう?

まずは日本らしい、またはその土地らしい空間を大切にすることだと思います。
良い町がある所には良い宿屋がある。
つまり、その土地自身が持っている空間、
そこに存在するこだわりを宿屋でも大事にすることではないでしょうか。

玉の湯の場合は、由布院の持つ季節感を施設の空間でプロデュースすることだと考えています。
そのためにはまずは優秀な庭師を育てていかないといけませんね。

良い宿屋がある所には良い町がある。
だから、玉の湯が由布院にあるということの素晴らしさを、
これからもお客さまに伝えていきたいと思います。

宿屋としてお客さまにこだわり・気づきを感じてもらうためには、
自らが気づくためのアクションが必要となります。
色々な方とお話しすることで、気づきのヒントが生まれてきます。
お客さまをわくわくさせるオーダーメイドな時間を創り出すことが
これからの経営者には必要だと思いますね。

* * *

桑野さんとの対談を通して、
彼女の「良い街がある所には、良い宿屋がある」という言葉が私の心に強く印象に残っています。
良い町があるから良い宿屋があり、良い宿屋があるから良い町がある。
もしかすると、この相互関係が崩れつつあるのが、国内観光の現状なのかもしれません。
桑野さんは、その土地と、滞在時間についてこだわりを持っており、
それをどうプロデュースするか研究されています。
彼女の姿勢は、これからの宿屋について参考にすべきものであると、
今回の対談で改めて感じさせられました。



(文・写真:末吉 秀典)

今月の宿屋データ
宿屋
由布院 玉の湯
所在地・連絡先
宿泊予約サイト

なし

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