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訪日旅行者の情報収集方法とリアルな旅行ニーズからみるインバウンド集客対策とは

<加速するインバウンドの実態>訪日旅行者の情報収集方法とリアルな旅行ニーズとは?

新型コロナウイルスの収束に伴い、日本への訪日外国人旅行者が増加傾向にあります。
海外旅行が再び活発化し、日本人も国外へと流れ始めた今、宿泊施設の担当者は、インバウンド市場の変動に注目し、波に乗る方法を模索しているのではないでしょうか。

今回は、インバウンドに関する様々な調査データを元に、訪日外国人旅行者の旅前および滞在中の情報収集の方法や旅行ニーズの実態を解説し、宿ができる対策について考察していきます。

 

訪日外国人旅行者の増加とその影響 

日本政府観光局(JNTO)の統計によると、2023年7月の訪日外国人旅行者数(推計値)が、2019年との比較で22.4%減(2019年実数:299万1189人)となっており、コロナ前の水準の約8割まで回復しています。インバウンドの回復に伴い、宿泊業や観光業も外国人利用者が増加し続けているのが現状です。

また、訪日外客数を地域別でみると、多い順に、韓国、台湾、中国、香港、米国という結果になっており、ほぼアジア圏が占めています。中国は2023年8月10日付で、日本への団体旅行・パッケージツアーの販売禁止措置が撤廃されており、今後のさらなる回復が見込まれるでしょう。

 

外国人旅行者の「旅マエ情報収集源」はSNSや動画サイトが主流

今、日本在住の外国人が発信する旅行チャンネルや他の様々なSNSプラットフォーム、そして動画共有サイトによって、日本の旅Vlogや文化に関する情報が広く発信されています。そしてこれらの情報は、訪日外国人が旅行前に情報収集源として、幅広い訪日旅行者に活用されています。
観光庁のアンケート調査結果を見ても、訪日外国人の出発前に役立った情報源は、「日本在住の親族・知人」(22.8%)、「SNS」 (21.9%)、「動画サイト」(21.4%)という結果になり、事前情報収集においては主軸となっていることが分かります。
また、「宿泊施設のホームページ」も12.1%と比較的高く、訪問エリアの宿泊施設を検索する際に、多くの人々が宿泊施設の公式ウェブサイトを参照していることが分かります。

 

引用:観光庁「訪日外国人の消費動向」訪日外国人消費動向調査結果及び分析(2022 年 年次報告書)

 

特に宿泊施設が注目すべきは、海外で人気のある旅行インフルエンサーや日本を紹介するYouTuberが提供している情報内容です。彼らがどのような日本の体験に感動し、どのような映像コンテンツや情報が視聴者から好評を得ているのか、を把握することはインバウンド市場での集客対策をしていく上で非常に重要なヒントとなります。

 

 

旅ナカで外国人旅行者に伝えると喜ばれる情報とは?

では、旅ナカで外国人旅行者が本当に求めている情報とは一体何なのでしょうか。
より快適で満足度の高い滞在をしてもらう為に、宿泊施設がゲストに提供できる情報にはどんなものがあるのか、探ってみましょう。

 

交通手段と日本独自の交通ルール

日本は先進国の中でも鉄道網が最も発達している国として有名です。
日本の各拠点を周る予定がある訪日外国人の場合は、主要な交通手段としてJRグループが共同で提供しているジャパン・レール・パスを購入しているケースが多く、様々な旅行系Youtuberやブロガーもそれを利用することをすすめています。ただ、各地域での滞在において、利用するべき交通手段は旅ナカで調べることも多く、地方になればなるほど情報の少なさに困惑するのが現状です。

そのため、地方では特に「周辺観光地や駅までの電車やバスの現地案内」が非常に重要になります。
交通手段としてタクシーもよく利用されますが、「流しのタクシーを拾う」方法が国によって違う場合があります。
そして路線バスの乗降の方法や運賃の払い方や、日本のタクシーの空車表示灯の色の見分け方など、目的地までの案内だけでなく、交通機関の利用方法もさりげなく伝えられると更に親切です。

 

周辺のローカル情報

殆どの訪日旅行者は、予め観光のプランを立てて日本に訪れる事が多いですが、定番観光地を訪問するだけではなく、さらに深い情報を求めている傾向が強くあります。“日本人目線”の日本食や日本の文化(日常)体験などの情報に関心を寄せていて、それを体験できたときは満足度が高くなります。

観光庁のアンケート調査結果によれば、「日本滞在中にしたことに対する満足度」の調査結果を高い順に並べると、「その他スポーツ(97.5%)」 、「日本の日常生活体験(96.9%)」、「舞台鑑賞(96.8%)」、「日本食を食べること(96.6%)」、「日本の歴史・伝統 文化体験(96.4%)」という結果になっています。

また、「今回の旅行でしたことと、次回したいこと」という質問に対しては、次回したいこととして「旅館に宿泊」「温泉入浴」「自然体験・農村体験」「四季の体験」等の項目が高い数値になっていたり、日本の伝統文化や日常生活体験は1回目と変わらないことから、再訪者は、より日本らしさを感じられる体験を求める傾向があることも分かります。

 

引用:観光庁「訪日外国人の消費動向」訪日外国人消費動向調査結果及び分析(2022 年 年次報告書)

 

その中で、今回は以下3つの項目に関して着目したいと思います。

<スポーツ観戦>

今、「相撲」以外にも日本独自の文化を味わえるスポーツとして注目を集めているものが「プロ野球観戦」です。WBCでの優勝も記憶に新しく、メジャーリーグでも球史に残るスーパースターを続々と輩出したこともあり、日本のプロ野球はアメリカの野球ファンの間でもよく知られています。


引用:https://youtu.be/ZfltfTZ6puI?si=b47LDH8bXU9_mHTE

日本のプロ野球は、各球団ごとに異なる応援スタイルや自由な歌声や音楽で盛り上がる日本独自のファン文化があり、メジャーリーグにはない楽しさがあると人気を博しています。さらに、ビールの売り子が観客席を回る様子や、試合の観戦料金の手頃さも、外国人旅行者にとって大きな魅力となっています。

<日本食&日常生活体験>

ガイドブックには載っていない「穴場の飲食店」やその時に開催されている「地域イベント」の情報も、積極的に伝えると喜ばれる傾向にあります。特に「日本食」は旅マエで訪日外国人が最も期待していることの一つです。ここでも重要なポイントは「日本人が好んで食べているもの、通っている店」に価値を感じていることです。



引用:観光庁「訪日外国人の消費動向」訪日外国人消費動向調査結果及び分析(2022 年 年次報告書)

訪日インバウンド事業を展開するTokyo Creativeが日本国籍以外の外国人1006人を対象として行った「飲食店に関する調査」によると、日本旅行で訪れてみたい飲食店1位は「ストリートフード(食べ歩き出来る食べ物)」2位は「居酒屋」という結果になりました。地域独自の食べ物やお酒、デザートなど、地域ならではの味を楽しめることが魅力だと感じられていることがわかります。

引用:Tokyo Creative株式会社 プレスリリース

 

<日本の歴史・伝統 文化体験>

欧米豪からの外国人旅行者の中では、中山道の馬籠(まごめ)から妻籠(つまご)を目指す真籠峠を歩き、宿泊施設を転々とする「歩く旅」、熊野古道を3~4日かけてあるく「巡礼旅」も注目を集めています。観光地化されていない古い町並みや、のんびり自分たちのペースで自然を楽しめる理由から人気が出ています。勿論、海外の旅行メディアや雑誌で取り上げられ認知されたこともありますが、ここまでインバウンド誘致が出来ているのは情報環境の整備も理由の一つとして考えられます。


例えば、中津川市は元々、過疎化が進む中で移住施策の一つとしてGoogleMapの経路検索の充実・データ整備に力を入れました。Google Mapで路線バスの検索ができるようになったことから、海外の訪日外国人がその情報を利用して馬籠に訪れるようになったという経緯があります。(参考:https://toyokeizai.net/articles/-/293070?page=3
情報を整備して一体となって環境を整え、「検索ができる」ということを地域全体でPRしていくことでインバウンドの誘致ができることを証明しています。

 

外国人旅行者に向けた宿の旅マエ情報発信ポイント

観光庁のデータから見ても、SNS・動画サイト・自社HPを閲覧する外国人旅行者が居る中で、ホテルや旅館はどのような情報をウェブ上に発信していけばよいのでしょうか。情報を発信する上で大切なポイントをご紹介していきましょう。

1.公式情報が各言語で正確に表示される

自社HP上で、宿泊施設の公式情報が正しく多言語対応できていることは非常に大切です。
中でも、アルファベット表記を地域として(他施設や道路表札と)統一したり、ピクトグラムを世界共通で分かるものに揃えることも重要になります。
同じエリアで同じものをさすのに英語の表示がバラバラだと旅行者が混乱します。

例えば
・温泉の表現がバラバラの場合は統一する
「Onsen」か「Hot Spring」「Spa」「Japanese Bath」等の表現を道路標示や観光案内所と統一
・喫煙可能エリア・Wifiエリア・トイレ・インフォメーションセンター等の必ず必要とされる情報は世界共通で分かるようなピクトグラムで表現する

2.海外からの検索で認知可能なチャネルを設けておく

外国人旅行者にとって「Googleビジネスプロフィール」や「トリップアドバイザー」は情報収集の入口とも言えます。
また、口コミも比較対象のひとつになります。世界共通のプラットフォームでの自社のアカウントをしっかりと管理し、最新の情報への更新、口コミ対策、自社HPへの導線づくり等、情報を整備し有効に活用しましょう。

 

3.フレッシュなローカル情報がSNSやBlog等で更新されている(言語翻訳対応がされている)

前述の通り、日本を訪れる外国人観光客は、地元の文化を最大限に楽しむことを望んでいます。
滞在地域で行われているアクセス可能な「祭り」「朝市」といったイベント情報や、地元で穴場の「カフェ」「居酒屋」など、ガイドブックが追い付かないフレッシュな情報は、日本国内の観光客だけでなく、訪日外国人観光客に向けても積極的に提供することをお勧めします。また、スピード感を持って発信でき、視覚的な情報を伝えるのに適したSNSを巧みに活用することも、有益です。

 

さいごに

日本各地の「本当の姿・ありのままの姿」を求めて外国人旅行者は情報を探し、実際に足を運んできます。日本の現地ファンと一緒に試合を楽しんだり、観光地化されていない町並みを好んで選択したり、その土地で日本人が好んで食べている食事処へ行ってみたいと考えています。そしてそのような「体験価値」にお金を惜しまず払う旅行者も沢山います。
勿論、インバウンド集客を成功させるには、交通インフラをはじめ「地域全体の協力と街を上げての情報整備」等の環境づくりが重要になってきます。

最後に、言語の壁というハードルを下げる為にも、事前の情報整備と、準備が何より重要になってきます。何を用意すべきかわからないときは、外国人旅行者が日本の旅で何を求めているのかという「本質」を知ることから始めてみると良いのかもしれません。その地域の楽しみ方やその土地の旬な情報を知っている第一人者として、宿泊施設が海外のゲストを「おもてなし」する手段はまだまだありそうです。

 

 

 

 

この記事を書いた人

はしもとかな

 

2015年入社後、コンサルティング営業室のコンサルタントとして全国のホテル・旅館のWEB集客支援を行う。現在は、宿泊業界のWEBマーケティングを支援するため、宿研通信の運営を担う。施設様のお悩みに寄り添った有益な情報発信を行うべく、日々業界のトレンドや情報の収集・分析を行っている。

 

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