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宿泊予約経営研究所所長の末吉秀典が注目の宿泊施設をご紹介するこのコーナー。
今月は、「鹿覗キセキノ湯 つるや」さんの体験レポートをお届けします。
群馬県の四万温泉は、年間約32万人もの観光客が訪れる県を代表する温泉地の一つ。
大小37余りの宿泊施設が点在する四万温泉の名は、源頼光の家臣・碓井貞光が、
童子から四万(よんまん)の病悩を治す霊泉を授かったことに由来するそうです。
以来、四万温泉は湯治場として栄え、1954年には国民保養温泉地の第1号に認定されました。
今回は四万温泉の一番奥に佇む1965年創業「鹿覗キセキノ湯 つるや」と、
2006年に『奇跡の軌跡 -1964~2006-』を出版し、
モダンな温泉旅館の火付け役として注目された代表取締役の関良則さんをご紹介します。
つるやの館はレトロモダンなイメージを打ち出した別邸「美月庵」と
和の情緒を大切にした和邸「山王院」の2つに分かれます。
美月庵は露天風呂付客室が7室、山王院も露天風呂付客室が6室となっており、
建築デザイナー松葉啓氏が手がけた館でもあります。
今回宿泊した客室は、美月庵の露天風呂が付いた「月」というお部屋。
和室とリビングにベッドルームそして、
プライベートな空間を独り占めできる展望デッキ付露天風呂で構成されています。
晴れた夜、灯りを消して満天の星空の下で入る露天風呂は最高の贅沢。
四万の美しい月夜をイメージした美月庵のコンセプトが存分に活かされている空間でした。
風呂場は全部で4ヵ所。大浴場が2ヵ所と露天風呂が2ヵ所、うち1ヵ所は季節限定ですが、
いずれも貸し切って自由に利用することができます。
特に露天風呂の鹿覗きの湯は、目を向けた先に木々が繁る山の傾斜があり、
岩風呂に浸かりながら四万の山景を愉しめます。
かつて主人の関さんが入浴していたとき、
日本カモシカが現れたことがこの湯の名前の由来だとか。
湯上がり処には瓶の牛乳とコーヒー牛乳が自由に飲める嬉しいサービスもありました。
お料理は毎月献立が変わる旬月懐石。
山の旬材に上州牛や鶏、川魚など地元鮮材の一品料理は嬉しいものばかり。
特筆すべきは、料理長こだわりの塩ちゃんことお楽しみスイーツ。
塩ちゃんこは「ちゃんこダイニング若」の総料理長として腕を鳴らし、
スイーツは料理番組で優勝したという腕前。
有名ちゃんこの味を四万で楽しめるのも、つるやならではのおもてなしです。
はたから見ると順風満帆に思えるつるやも、今回の震災の影響を受けているのだと聞きました。
湯治場からスタートした宿だからこそ、
一時的に被災者の方を受け入れ原点を見つめ直そうとしました。
そこで、支援を兼ねて被災地から若い方を雇用してみたものの、経験不足のためお客さまにご迷
惑をかけることもあり、苦労しているとのことです。
「一からやり直しです。今のスタッフと一緒にもう一度
お客さまに喜んでいただけるおもてなしを取り戻しますよ」と関さんはお話してくれました。
温泉旅館の楽しみはおもてなし。
そのおもてなしが宙に浮けば、お客さまの満足度も浮いてしまいます。
関さんは旅行会社でお勤めした経験があり、
その経験を活かした様々な発想をお持ちになっています。その一つが自遊旅設計の発想です。
「旅館だからこうしないといけないのではなく、別荘感覚で旅館を使っていただく。
海外のリゾートのようにホテルに泊まるが、食事は他のホテルのレストランや
街のレストランで食べることも良しとする。自由な感覚で旅館に泊まることを実現していきたい。
まずは近い将来、レストランを併設して、昼も夜も宿泊のお客さまだけでなく、
他のお客さまでも気軽に利用できるような場を提供していきたい」とのことでした。
この思想が評価されるためには、
つるやだけでなく他の四万温泉の施設からも魅力ある場の提供が必要だと思います。
大変時間を要すると思いますが、非常に魅力的な考え方だと私も考えています。
四万温泉を訪れたお客さまが、
街中のレストランで自由に食事を楽しんでいる温泉場を想像するとワクワクしませんか?
関さんとの対談の中で、改めて宿屋が直面する経営の舵取りの難しさと、
広がりのある将来性の両方を感じる事ができました。
足下をしっかりと固めて理想の像を追い求める姿こそ、
宿屋の経営者に必要なことなのかもしれません。
関さんが作り出す、つるやの奇跡の軌跡はまだ続いています。
(文・写真:末吉 秀典)
鹿覗キセキノ湯 つるや |
〒377-0601 群馬県吾妻郡中之条町四万4372-1
0279-64-2927 →鹿覗キセキノ湯 つるや 公式HP |
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電車でJR上越新幹線高崎駅からJR吾妻線中之条駅で下車し、バスで40分。
お車で関越自動車道渋川伊香保ICから国道353号線経由で約70分。 |