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宿研通信 9月号

気になる宿屋レポート 末吉が行く

宿泊予約経営研究所所長の末吉秀典が注目の宿泊施設をご紹介するこのコーナー。
今月は、「辰巳屋山荘 里の湯」さんの体験レポートをお届けします。

「辰巳屋山荘 里の湯」

首都圏から東北地方への玄関口でもある福島県。
中心の福島駅へは東京から東北新幹線でわずか約1時間30分という距離です。

魅力的な観光地・温泉をたくさん抱える福島ですが、今回は福島駅から車で30分ほどの距離にある、
山あいの温泉「土湯温泉」の湯宿に出かけることにしました。

土湯温泉は安達太良山系と吾妻山系に連なる山あいの湯量が豊富な温泉地。
荒川沿いに古くから湯治場として栄え、こけしの温泉街としても有名です。
今月は、土湯温泉街から少し離れた谷間に佇む静寂な湯宿
「辰巳屋山荘 里の湯」の宿泊レポートをしていきます。

沢山の緑に囲まれた
林の中の静かな宿

福島市内から国道115号線で土湯温泉街方面に向かう側道に入るとすぐ右手に、
今回の目的の湯宿の看板が目に入ってきます。

木々に囲まれた曲がりくねった坂道を下り、宿屋の玄関前に到着。
杉の原生林に覆われた4,000坪もの広大な敷地に一軒のみ佇む湯宿は、
離れの客室が1室。母屋の客室が10室と全部で11室。
その他、入浴施設が露天風呂と大浴場、家族風呂の3ヶ所となっており、
まさに山あいの山荘の趣を感じさせてくれます。

玄関先の下駄を見ると
温泉気分を昂揚させてくれます
玄関先の下駄を見ると温泉気分を昂揚させてくれます
枝打ちされた原生林の杉林の中を
縫うように続く回廊
枝打ちされた原生林の杉林の中を縫うように続く回廊

静寂を独り占めできる
贅沢な完全貸切入浴システム

本日のお部屋は8畳と6畳の和室が二間続きになった「梅」。
窓を開けると森林の爽やかな風が部屋全体に行き渡ります。

まずはお抹茶と手作りの羊羹をいただきつつ、貸切入浴システムの説明を受けます。
里の湯では全ての入浴施設が事前の完全貸切となっており、
30~40分の間隔で希望の入浴時間をあらかじめ決めておくのだとか。

まずはお部屋で
お抹茶と手作りの羊羹をどうぞ
まずはお部屋でお抹茶と手作りの羊羹をどうぞ
森林浴を楽しみながら
谷あいの沢まで続く木の回廊階段
森林浴を楽しみながら谷あいの沢まで続く木の回廊階段

お客さまの賛否は色々とあるそうですが、野趣溢れる露天風呂や、
古代檜の全面板張りの贅沢な大浴場も独り占めできるというのは、
客室が少ない宿屋ができるアイデアだと思います。

シンプルな中にも品の良さを感じさせる
「梅」のお部屋
シンプルな中にも品の良さを感じさせる「梅」のお部屋
古代檜を使用した内風呂。
檜の香りと源泉を楽しめます
古代檜を使用した内風呂。檜の香りと源泉を楽しめます

露天風呂が付いた
民芸調のしつらいのお部屋「こぶし」
露天風呂が付いた民芸調のしつらいのお部屋「こぶし」
「こぶし」のお部屋に備えられている
露天風呂きよたえ
「こぶし」のお部屋に備えられている露天風呂きよたえ

早速、里の湯自慢のお風呂の一つ、
一番人気の森の中に佇む露天風呂「金剛の湯」を予約して入浴に向かいます。

枝打ちされ、スッと真っ直ぐ伸びた杉林と木漏れ日が溢れる中、
木の回廊の階段を沢音がする谷合いに向かって下っていきます。
男女別の暖簾をくぐり、入口の障子戸を開けると
目の前には扇の型をした源泉掛け流しの露天風呂。

温泉は無色透明でかすかに硫黄臭がする柔らかいお湯。
産ヶ沢が流れる沢沿いには、八角形のもう一つの露天風呂があり、
森林入浴を独占できることがこの宿屋の最大の魅力です。

静寂の中で湯に浸かりながら耳を澄ませば、
木々の葉ずれ合う音、小鳥のさえずり、沢の流れる音、湯が流れる音。
全てが見事に共鳴し、その極上の音たちが旅人の心を癒してくれます。

原生林の杉林に囲まれた
露天風呂「金剛の湯」
原生林の杉林に囲まれた露天風呂「金剛の湯」
沢の音を聴きながら
爽快な森林入浴を独り占め
沢の音を聴きながら爽快な森林入浴を独り占め

大浴場は贅沢にも樹齢一千年を超える古代檜を湯船だけでなく床板まで全面に使用されています。
家族風呂は内湯と半露天風呂の構成。
脱衣場はアメニティも充実していてモダンなスタイルとなっています。

樹齢一千年を超える
古代檜を使用した大浴場
樹齢一千年を超える古代檜を使用した大浴場
湯面に揺れる葉緑の陰影が美しい
家族風呂の内湯
湯面に揺れる葉緑の陰影が美しい家族風呂の内湯

半露天風呂に浸かれば
聞こえてくるのは湯のそそぐ音
半露天風呂に浸かれば聞こえてくるのは湯のそそぐ音
ガラスのシンクがお洒落な
家族風呂の脱衣所
ガラスのシンクがお洒落な家族風呂の脱衣所

福島の味が詰まった
スッキリとした味わいの食膳

夕食は、山里の懐石を基調としながらも、各地の海山の食材を使ったコース料理。

先付と前菜の一品は、
初夏の季節をイメージさせる各料理は色彩が豊かですっきりと爽やかな味わいです。
地元のさくらんぼをイメージさせたミニトマトは
果物王国である福島ならではといったところでしょうか。

季節感を感じさせる
各地の海山を用いた懐石料理
季節感を感じさせる各地の海山を用いた懐石料理
フォアグラ・蛸・丸茄子・
冬瓜・ホワイトアスパラの冷し鉢
フォアグラ・蛸・丸茄子・
冬瓜・ホワイトアスパラの冷し鉢

次にお造りと旬の鱧でこしらえた真丈の椀が続き、
鱸の焼き物、穴子の蓮根蒸しと海産の旬が一品ずつ手元に運ばれてきます。

冷し鉢の夏野菜で涼の味覚を楽しんだ後、
運ばれてきたのは温野菜が添えられた黒毛和牛のステーキ。
ワインソースとわさびを絡めていただくと、
肉の旨みと相まった味わいに思わず笑顔がこぼれます。
海産料理で塁を埋め尽くしたところで満塁ホームランを打った、という感じでしょうか。
最後に珍しいオリーブ酢を使用したゼリーの酢の物とデザートをいただいて終了。
舌もお腹も満足のいくお料理でした。

わさびのアクセントが
肉の旨みとワインソースを引き立てます
わさびのアクセントが肉の旨みとワインソースを引き立てます
豊富な福島産の銘酒を
利き比べできる利き酒セット
豊富な福島産の銘酒を利き比べできる利き酒セット

翌朝の朝食は、小鉢の品数もしっかりある中、地の湯豆腐が目に付きます。
朝から大豆の甘みを感じながらいただく湯豆腐は何とも贅沢。
そして、美味しいご飯やお味噌汁もしっかりとおかわりをしてしまいました。

朝食後のコーヒーでは、運ばれてきたカップやソーサーが冷めないように温められていました。
この辺りの細かなこだわりが、里の湯のおもてなしのひとつなのかもしれません。

湯豆腐や里の料理の小鉢も
豊富で美味しい朝食
湯豆腐や里の料理の小鉢も豊富で美味しい朝食
炭火で温められる
朝できたて地元の湯豆腐とダシ汁
炭火で温められる朝できたて地元の湯豆腐とダシ汁

土湯温泉街からも離れ、原生林の中に佇む宿。小規模な宿故に考え出された貸切入浴システム。
贅沢にも森林入浴を独り占めできる絶対的な魅力。
それゆえに他のお客さまとも会うことが少なく、まさに“静寂の湯宿”。
ぜひ皆様も一度お出かけになり、あの静けさの空気を味わっていただければと思います。

木々の緑に瓦屋根が映える
午後のひととき
木々の緑に瓦屋根が映える午後のひととき
散策路の木漏れ日に
きらりと輝きをみせる苔
散策路の木漏れ日にきらりと輝きをみせる苔

(文・写真:末吉 秀典)

今月の宿屋データ
宿屋 土湯温泉 辰巳屋山荘 里の湯
所在地・連絡先
宿泊予約サイト
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