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宿研通信 4月号

気になる宿屋レポート 末吉が行く

宿泊予約経営研究所所長の末吉秀典が注目の宿泊施設をご紹介するこのコーナー。
今月は、「京都府 石塀小路 龍吟」さんの体験レポートをお届けします。

京都府 石塀小路 龍吟

清水寺・高台寺・八坂神社など有名な寺社が点在し、多くの観光客で賑わいを見せる京都東山。
その一角に閑静な町屋の風情を醸しだす狭い石畳の路地、
訪れる人の心を魅了してやまない石塀小路があります。

国の重要伝統的建造物保存地区にも指定されている石塀小路の界隈。
元々は高台寺・圓徳院の境内だったそうで、大正初期に宅地として造成され、
昭和の時代に入ってから現在の風情ある石塀と石畳を携えるようになったそうです。
当時の市電で使用されていた石畳をそのまま再利用しているというのも魅力の一つ。

今回は、京の粋人がそぞろ歩く面影を残す小路に、
“上質”をコンセプトに2012年10月にオープンした
ラグジュアリーな旅館「龍吟」をご紹介させていただきます。

思わず通りから見過ごしてしまいそうな
石塀小路への入口。
思わず通りから見過ごしてしまいそうな石塀小路への入口。
夕暮れの頃、京の粋人がそぞろ通う
料亭や宿屋が建ち並ぶ狭い小路。
夕暮れの頃、京の粋人がそぞろ通う料亭や宿屋が建ち並ぶ狭い小路。

日本が世界に誇る
最高級の“上質”

「龍吟」は、八坂神社南門近くに佇む旅館「ぎおん畑中」の姉妹館。
石塀に囲まれた高台の敷地は、畑中社長のご自宅が元々あった場所だそうです。

世界に通じる観光都市である京都にふさわしく、
プライベートな空間を大切にする富裕層の方に、
上質なサービスを提供することを目的に新たに建築されました。

建屋は半地下を含め3階層の構造となっており、
高台に建つ1・2階部にはロビー・ラウンジと、それぞれコンセプトの異なる
「忘筅(ぼうせん)」「幽石(ゆうせき)」といったスイートルームが2室。
半地下部には、食事処でもある割烹料理「かみくら」があります。

外観は石塀小路に調和する京の町屋スタイル。
茶室を想像させる円形の下地窓や、
軒下の簾がさらに建物の美しさを引き立てています。

注目すべきは、プライベートを重視した先進的なシステム。
客室だけでなく、館外の全ての入口に
キーパネル暗証セキュリティシステムが導入されています。

お客さま自身が暗証番号を設定することで、24時間入出館が可能になり、
門限なども気にすることがなくなるとのこと。
このシステムにより、部外者が館内に入れない仕組みになっていました。

京の風情を味わえる
石塀小路独特の高台に上がる石段と入口。
京の風情を味わえる石塀小路独特の高台に上がる石段と入口。
コンシェルジュサービスを受け付ける
フロントデスク。
コンシェルジュサービスを受け付けるフロントデスク。

簡潔に整われた空間が心地よい
品の良い和モダンのロビー。
簡潔に整われた空間が心地よい品の良い和モダンのロビー。
キーパネルを操作して開閉錠を行う
暗証セキュリティシステム。
キーパネルを操作して開閉錠を行う暗証セキュリティシステム。

京に表現された
“龍吟虎嘯”の心

館内は落ち着きを演出する、品の良い和モダンのしつらいとなっており、
意匠は和調でありながら、機能は洋調とメリハリの効いた空間となっています。

客室は2タイプ。1階の「忘筅」は73平米の広さ。
坪庭に続く広縁と和室8畳・ツインベッドの寝室・大型液晶テレビが
設えられたリビングルームの構成。

8畳の和室と広縁には墨色の畳が敷かれており、心地よい時間を創り出していました。

安らぎの時間を約束してくれる
キングサイズのツインベッドルーム。
安らぎの時間を約束してくれるキングサイズのツインベッドルーム。
思い思いに過ごす大型の液晶テレビが
設えられたリビングルーム。
思い思いに過ごす大型の液晶テレビが
設えられたリビングルーム。

墨色の畳と襖が
厳粛な京の風情を感じさせる和室と広縁。
墨色の畳と襖が厳粛な京の風情を感じさせる和室と広縁。
閑静な小路に渡るそよ風と陽光を浴びながら
二人で過ごすひととき。
閑静な小路に渡るそよ風と陽光を浴びながら二人で過ごすひととき。

2階の「幽石」は100平米と十分な広さ。
石塀小路を望む広縁と和室6畳・ベッドルームの寝室が2部屋、
天井に巨大な岐阜提灯がぶら下がる特徴的なリビングダイニングの構成。

石塀小路を望む広縁で窓を開け、
なぐりの感触を愉しみながら小路の静けさを聴き、
過ぎ去る時間を無駄遣いする贅沢は、まさに至福の極みでした。

巨大な岐阜提灯が目を引く
100平米の幽石。
巨大な岐阜提灯が目を引く100平米の幽石。
円形の下地窓が
京の風情を醸しだすベッドルーム。
円形の下地窓が京の風情を醸しだすベッドルーム。

お茶会を催すこともできる
ゆったりとした幽石の和室。
お茶会を催すこともできるゆったりとした幽石の和室。
小路に響くそぞろ歩く人々の声に耳を傾け
なぐりの感触を愉しむ広縁。
小路に響くそぞろ歩く人々の声に耳を傾けなぐりの感触を愉しむ広縁。

圧倒的な漆黒と
木板のコントラストがモダンな化粧ルーム。
圧倒的な漆黒と木板のコントラストがモダンな化粧ルーム。
足を伸ばしてゆったりと寛げる
バスとアメニティ。
足を伸ばしてゆったりと寛げるバスとアメニティ。

なぜ「龍吟」という宿名なのか?

社長の畑中誠司さまに伺ったところ、
中国の思想で王城の東を守る神は青龍とされ、
京の東に位置するこの地は、古来より“龍”に関わる諸説があったそうです。

八坂神社のあたりは、龍穴という龍の住処があったという言い伝えもあるとか。

また、禅の教えに「龍吟虎嘯(りゅうぎんこしょう)」という言葉があり、
「お客さまの心を感じ、最高の時間を提供したい」という思いから、
「龍吟」という名称に決めたそうです。

建築に際しては色々とご苦労もあったようで、
路が狭く、重機を入れることができなかったため、
梁の組み上げなど人手で対応して時間をかけて建築したそうです。

理想の空間でもてなされる
こだわりの創作京料理

さて、「龍吟」のもう一つの特徴でもある食事処の「かみくら」。

石畳の階段を下り暖簾をくぐれば、
目の前に10席ほどのカウンターの空間が広がります。

一枚物のタモの木から造られたというカウンターは、それは見事で、
これからいただく料理長こだわりの京料理にも期待が高まります。

わずかカウンター・テーブル共に10席の
隠れ家的な割烹料理「かみくら」。
わずかカウンター・テーブル共に10席の隠れ家的な割烹料理「かみくら」。
カウンター越しに料理長の仕事を
間近に愉しめる至福の空間。
カウンター越しに料理長の仕事を間近に愉しめる至福の空間。

まずは春を感じさせる彩り鮮やかな野菜のテリーヌに、
白子のソースと黄味酢のソースをあしらった先付。
八寸は如月らしいお雛様の器に、全国各地から取り寄せた品々が盛り付けられています。

全国の産地から直接仕入れた旬材を厳選しているそうですが、
特に京の地物にこだわり、野菜は有機農法で育てられる上賀茂の
契約農家から取り寄せて調理しているそうです。

お椀は柚子の風味がほのかに薫る車海老の真丈仕立て。
お造りは瀬戸内の鯛に京都伊根の鮪、愛媛の河豚の昆布〆に煮こごりと赤貝と絢爛豪華。
ムース仕立てのレモン醤油をお刺身につけていただきます。

春の装い。春野菜と
ずわい蟹・蛍烏賊をあしらったテリーヌ。
春の装い。春野菜とずわい蟹・蛍烏賊をあしらったテリーヌ。
お雛様の器を開けると
厳選された各地の旬が添えられています。
お雛様の器を開けると厳選された各地の旬が添えられています。

器におもてなしの心。長寿を願う思いに
柚子の風味がほのかに薫ります。
器におもてなしの心。長寿を願う思いに柚子の風味がほのかに薫ります。
鮪は鮪でも京都伊根のこだわり。
ムース仕立ての檸檬醤油を添えて。
鮪は鮪でも京都伊根のこだわり。ムース仕立ての檸檬醤油を添えて。

続いては、京都和牛のほほ肉を白味噌で煮込んだパイシチュウ風の一品。
パイ生地ではなくお麩にくるまれて饗されます。お麩は醤油の味付けで香ばしく美味。
煮込み野菜は、全て京の地物の筍・海老芋・堀川牛蒡・京人参が添えられていました。

料理に使用されている素材、味も素晴らしいですが、料理ごとの器の演出も必見です。

料理長の矢野由彦さん曰く、
「かみくらはお客さまとの距離が近く、カウンター越しにお客さまとの会話を愉しみ、
最高の素材を絶妙なタイミングでお通しすることができる理想の空間です。
これからもぎおん畑中とはまた違った新感覚の料理を創作していきたい」とのことでした。

さらに料理長こだわりのお肉料理が入ることに。
柔らかな京都和牛のヒレ肉の旨みを引き出す、料理長考案の数種類の薬味を添えていただきます。

充実のワインも自慢の一つ。
社長が長年集積してきた希少なコレクションも、多数取り揃えているとのこと。
料理長との語らいとオススメのワインの組み合わせに心地よく酔いに包まれます。

夕食のコースは全部で11品。
季節の贅を求めた料理の一品一品に、料理長のきめ細かなおもてなしの心が垣間見られました。

柔らかく味わい豊かな頬肉に
白味噌が良く合います。
柔らかく味わい豊かな頬肉に白味噌が良く合います。
料理長考案の薬味に
京都牛のヒレ肉の旨みが引き立てられます。
料理長考案の薬味に京都牛のヒレ肉の旨みが引き立てられます。

ピリッとした辛みとジャコの旨みが
絶妙のオリジナルのちりめん辛唐。
ピリッとした辛みとジャコの旨みが絶妙のオリジナルのちりめん辛唐。
彩り鮮やかな9種類の小鉢に
湯豆腐と銅釜で炊きあげたご飯で朝食を。
彩り鮮やかな9種類の小鉢に湯豆腐と銅釜で炊きあげたご飯で朝食を。

明け方には高台寺の鐘の音が響き渡る京の小路に、
ただ2組のゲストをもてなすための閑静な京の宿。

お客さまの心を感じ、最高のおもてなしを提供する宿「龍吟」。

石塀小路の風情と畑中社長の思い、そして料理長のこだわりが存分に活かされた宿屋でした。

(文・写真:末吉 秀典)

今月の宿屋データ
宿屋京都府 石塀小路 龍吟
所在地・連絡先
宿泊予約サイト
 →一休.COM →楽天トラベル 
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