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宿研通信 1月号

気になる宿屋レポート 末吉が行く

宿泊予約経営研究所所長の末吉秀典が注目の宿泊施設をご紹介するこのコーナー。
今月は、 「石川県 金沢 金城樓」さんの体験レポートをお届けします。

石川県 金沢 金城樓

羽田空港から飛び立つこと約50分。
北陸の玄関口でもある小松空港にあっという間に到着します。
師走の北陸のイメージは、どんよりと雪雲が漂う寒々とした
景色を想像していたのですが、この日は雪のない温かな日より。
早速レンタカーを借りて一路金沢市内へ向かいます。

多くの人の心を惹きつける金沢ですが、
その魅力は何といっても戦国を代表する人気武将の一人、前田利家公を始め、
前田家が代々築き上げてきた加賀百万石の城下町に点在する名所名跡でしょう。
兼六園や茶屋街は加賀の四季の情緒風情を彩り、
工芸品としては金箔・漆・加賀友禅など日本独自の匠の伝統技が光ります。
また、食文化としても治部煮など郷土料理を初め、
和菓子なども大変有名な土地柄です。

今回は伝統の匠の技・文化が息づく古都金沢に、1890年開業以来、
加賀の料亭文化を大切に継承している
老舗料亭旅館「金城樓」をご紹介させていただきます。

和の贅を尽くした
気品の空間

金沢を代表する観光名所の金沢城公園や兼六園、
ひがし茶屋街からほど近い浅野川の畔の界隈に佇んでいる金城樓。
車で到着して、最初に思わず息を飲む伝統美に魅せられるのが車寄せからの玄関。
舞台を思わせる畳敷きの小上がりの正面には
幅5m以上はあろう艶やかにライトアップされた金色の屏風が目の前に広がり、
圧倒されるほどの荘厳な存在感に包まれます。

仲居さんのおもてなしを受け、窓越しに美しい庭を眺めながら
木の温もりを感じさせる畳敷きの通路を進み、
本日の宿泊する客室「月の間」までご案内いただきます。

艶やかにライトアップされた
金色の大屏風がお出迎え。
艶やかにライトアップされた金色の大屏風がお出迎え。
館内から望む雪支度を済ませた雪吊りが
冬の情緒漂う庭園。
館内から望む雪支度を済ませた雪吊りが冬の情緒漂う庭園。

代々伝わる獅子印璽灯籠と
ライトアップされた見事なお庭。
代々伝わる獅子印璽灯籠とライトアップされた見事なお庭。
和のおもてなしを感じさせる
客間先前の廊下。
和のおもてなしを感じさせる客間先前の廊下。

館内の客室は「月の間」「雪の間」「花の間」のわずかに3室のみ。
「月の間」と「雪の間」は10畳と12畳の本間に次の間、広縁と総檜風呂の内湯付の構成。
「花の間」は本間10畳に次の間と総檜風呂の内湯付の構成。
どちらの客室も格調高い和の設えとなっており、
大人の静寂な空間が用意されています。
また、Wi-Fiのネット環境も老舗ならではの
細やかなおもてなしを感じました。

しばらくすると、仲居さんがお茶菓子の一式を運んできます。
何か気品を感じさせる和菓子の説明を聴けば、
知る人ぞ知る金沢を代表する和菓子「吉はし」の上生菓子とのこと。
店頭の販売はなく、金沢市内の限定された処でしかいただくことができないそうです。
本格的な冬に備え、雪吊りの支度を終えた坪庭の木々を眺め、
ありがたく味わいながら銘菓をいただきます。

ゆったりとした数寄屋造りの
二間の和室「月の間」。
ゆったりとした数寄屋造りの二間の和室「月の間」。
さりげないおもてなしは
「吉はし」の上生菓子を添えて。
さりげないおもてなしは「吉はし」の上生菓子を添えて。

豊かな檜の香りと
木の温もりが心癒やされる内湯。
豊かな檜の香りと木の温もりが心癒やされる内湯。
ブルガリを始め
金城樓オリジナルの充実したアメニティ。
ブルガリを始め金城樓オリジナルの充実したアメニティ。

旬の食材に彩られた
伝統と今様の料理

外はすっかり日も落ち、凛と冷えた冬の空気が辺りを覆う夕刻。
紅殻色の壁が特徴的な会食処「鳳凰の間」に通されます。

金城樓の夕食は伝統的な茶懐石。
加賀独特の旬の食材と共に料理に使われる器も含め、懐石料理を彩ります。
今回は通常の懐石料理に冬の味覚「加能がに」の料理を加えたコースをいただくことに。

初めに、食前酒で口を潤わせます。もてなしの料理は茅の輪で飾られた5品の八寸。
能登は珠洲大浜大豆の白和え、なまこのみぞれ和え、
鮪のとろろにからすみと一箸摘むごとに思わず笑みがこぼれます。

次に、見た目も見事な輪島塗の椀に、
七尾の石崎海老を真丈に仕立てた熱めのお吸い物。
黄ニラと柚子の香りが見事に共鳴し、口の中でふくよかに海老の出汁の旨みと交わります。
椀の具材と汁を口の中に注ぐ度に「うまい!」と思わず言葉が漏れる始末。

お造りは大皿で饗されます。寒ブリに寒ヒラメと槍烏賊。
煮こごりのように固めた牛蒡醤油に玄界灘の天然塩をお好みで添えていただきます。
淡泊な白身はもちろん、寒ブリの豊潤な風味も牛蒡の香りと広がり合い、
その後醤油の甘みが刺身を包み込む贅沢な味わいです。

紅殻色の塗り壁が洗練された
大人の空間を演出している「鳳凰の間」。
紅殻色の塗り壁が洗練された大人の空間を演出している「鳳凰の間」。
無病息災を願う茅の輪飾りと師走の胸中を読む
「光陰矢のごとし」の短冊を添えた八寸。
無病息災を願う茅の輪飾りと師走の胸中を読む「光陰矢のごとし」の短冊を添えた八寸。

見事な輪島塗の黒椀に石崎海老真丈と
鮮やかな野菜を添えたお吸物。
見事な輪島塗の黒椀に石崎海老真丈と鮮やかな野菜を添えたお吸物。
牛蒡醤油の香りが寒ブリ・寒ヒラメ・
槍烏賊の白身の刺身を引き立てます。
牛蒡醤油の香りが寒ブリ・寒ヒラメ・槍烏賊の白身の刺身を引き立てます。

ここでお楽しみの「加能がに」のお造りが運ばれてきます。
「加能がに」は石川で揚がる蟹のブランドで、越前がにや松葉がにと同じずわい蟹です。
大ぶりでふっくらとプリプリの身が詰まった新鮮な刺身を豪快に口の中へ。
すると、ほどよく冷えた蟹の身からコクがグッと膨らみ、
しっかりとした極上の味わいを愉しめます。

次に、郷土料理の「真鴨の治部煮」。昔はキジや鶴を用いていた時代もあったそうです。
見事な唐獅子が描かれていた治部椀には、
柔らかく煮込まれた真鴨と加賀独特のすだれ麩が姿を見せます。
添えられているわさびを汁に溶かしていただくと、
食材の味が更に引き立つのを口の中で感じます。

焼物は造り同様大ぶりな「加能がに」の足の焼がに。
甲羅を少しずつ手で割りながら、芳しい磯の香りとともに一口で。
再び極上の味わいを愉しみます。

料理もいよいよ終盤となり、強肴に加賀野菜のくわいをお餅風にして香ばしく揚げ、
柚子味噌でいただく鉄鉢なべ料理。
こちらは熱々のくわい餅のほくほく感と、甘みのある柚子味噌の絡みが絶品でした。

大ぶりでプリプリ甘みのある絶品、
地元「加能がに」の造り。
大ぶりでプリプリ甘みのある絶品、地元「加能がに」の造り。
金獅子の絵柄が見事な治部煮専用の治部椀。
煮込まれた真鴨は柔らかくコクが深い。
金獅子の絵柄が見事な治部煮専用の治部椀。煮込まれた真鴨は柔らかくコクが深い。

「加能がに」の中でも極上大柄の脚の焼がに。
たらば蟹のように身が詰まっています。
「加能がに」の中でも極上大柄の脚の焼がに。たらば蟹のように身が詰まっています。
ジュレ風の餡が添えられた
茹でた「加能がに」の脚身の酢の物。
ジュレ風の餡が添えられた茹でた「加能がに」の脚身の酢の物。

酢の物は再び、「加能がに」の茹でがにをいただき、
締めには土鍋で炊かれたこうばく蟹の炊き込みご飯と味噌汁。
こうばく蟹とはずわい蟹のメスのことで、
身だけでなく、内子・外子も一緒に炊きあげてあり、
蟹の香りだけでなく食感も味わえます。

金城樓の懐石料理を通して、
金沢の豊かな食文化を十分に堪能することができました。
ご馳走様でした。

加賀野菜の代表くわいを使った
揚げ餅と柚子味噌の鉄鉢なべ。
加賀野菜の代表くわいを使った揚げ餅と柚子味噌の鉄鉢なべ。
こうばく蟹の身と内子、
外子と共に土鍋で炊きあげたご飯。
こうばく蟹の身と内子、外子と共に土鍋で炊きあげたご飯。

能登大納言小豆を使った
牛乳羊羹に天草ミカンとももイチゴを添えて。
能登大納言小豆を使った牛乳羊羹に天草ミカンとももイチゴを添えて。。
仲居さんが手際よく一品一品
テーブルに並べられる和の朝食風景。
仲居さんが手際よく一品一品テーブルに並べられる和の朝食風景。

時を同じくして、2013年12月に国連教育科学文化機関(ユネスコ)において、
日本人の伝統的な食文化として「和食」が無形文化遺産に
登録されるという嬉しいニュースが入ってきました。
国内では22件目となるそうですが、懐石料理や郷土料理を含め、
和の食文化が世界で認められたということは素晴らしいことではないでしょうか。

金城樓の代表である土屋氏も金沢の伝統的な食や芸術を金城樓に於いて、
より多くの方に堪能していただき、人のおもてなしに
より一層力を注いでいきたいとおっしゃっています。

2015年には地元待望の北陸新幹線も開通を予定しており、
金沢は首都圏のビジネス・観光客にも、より身近な存在となることでしょう。

世界に認められた和の文化を感じに、
石川県金沢の老舗料亭旅館「金城樓」に
皆様も一度お出かけになってみてはいかがでしょうか?

(文・写真:末吉 秀典)

今月の宿屋データ
宿屋石川県 金沢 金城樓
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