
イベント名を使う前に!ホテル・旅館のスタッフが知るべき商標権と著作権のルール
2025. 06. 11
最終更新 2025. 06. 11

イベントや祭りなど、地域の催しが目白押しになるこれからの季節。宿泊施設にとってイベント名を冠したPRやSNS投稿、連携した宿泊プランは、集客の大きな力になります。
しかし、そのイベント名や写真、書かれているコピーを勝手に使って大丈夫でしょうか?
実は、イベントや写真には商標権や著作権などの知的財産権が存在します。
現在の宿泊業は、業界が初めてのスタッフや、外国人スタッフの増加で法律への理解度にばらつきが出やすい環境であり、SNSなどの気軽な販促機会も相まって「これくらいなら大丈夫だろう」と安易に情報発信してしまうリスクがあります。コンプライアンスが厳しく問われる今の時代、企業として「知らなかった」では済まされません。
とはいえ、過度に萎縮する必要もありません。ルールさえ理解していれば、イベントや観光資源を活用した効果的な集客は十分可能です。
この記事では、ホテル・旅館のスタッフの方に向け、知的財産権の基礎知識、注意が必要な9つの販促・情報発信のシーン、そして、安心して販促活動をするための具体的な確認方法をご紹介します。
これを読めば、安心して地域イベントを呼び水とした販促活動に取り組めるので、ぜひ他のスタッフの皆さまとも共有し、実務にお役立てください。
目次
ホテル・旅館の販促活動で知っておきたい知的財産の基礎知識
「知的財産」とは、“人が考え出したアイデアや創作物などの財産的な価値を持つもの”をいいます。
そして、それらを守るための権利や法律が「知的財産権」です。
知的財産権は大きく3つに分かれており、宿泊施設のWeb担当者の方が注意すべき知的財産権として、このうちの3つを取り上げ解説します。
著作者が創作した文章・写真・デザイン・映像などの“著作物”を保護するために、著作者に与えられた権利です。例えば、YouTubeやSNS用の動画に、アーティストの楽曲をBGMとして流したり、他人が撮影した写真を無断で使用したりすると、著作権侵害に該当する可能性があります。
ある名称やロゴなどを、特定の企業や団体が商標登録をした範囲内*で独占的に使えるようにする権利です。例えば、「〇〇祭」「〇〇大会」のように、イベント名や観光地名そのものが商標登録されている場合があります。無断でプラン名や広告に使うと、商標権侵害にあたるリスクがあります。
*商標権には、「どのサービスや商品に使うのか(=指定役務・指定商品)」が登録されており、その範囲の中で独占的に使える権利になります。他の事業者は、その範囲内で無断使用することは原則として認められていません。
これは他人の信用を不当に利用する行為を禁止する法律です。例えば、提携していないイベントにも関わらず、“公式っぽく”見せて誘客するような表現は、この法律に違反する可能性があります。
自社HPやOTA上の集客で、知らずにやりがちなNG例
次に、上記の知的財産権に抵触しまう恐れのある代表的な例を4つご紹介します。
イベント名や観光地名自体に、商標登録がされている場合があります。
その場合は、その名称を使用しても問題がないのか、使用範囲について確認をしましょう。
使用の可否は、公式サイトの利用ガイドやQ&Aに明記されていることもあるため、公式サイト等もチェックして下さい。特に、下記のようなイベントや催しには商標登録がされていることが多いので、注意が必要です。
- 国際的スポーツ大会
- 国際的な博覧会
- 全国規模の音楽フェスティバル
- 地域の無形文化財に指定されている伝統行事
- 地元自治体が独自で商標登録している観光キャンペーン
また、地域団体商標制度といい「地域名」+「商品(サービス)名」からなる地域ブランドを保護する制度があります。この中には、「熱海+温泉」や「有馬+温泉」などと、温泉地の名称もいくつか登録されており、その温泉地の名称を使用できる範囲が定められている場合があるため合わせて注意が必要です。
下記URLより、地域団体商標制度にて商用登録されている案件を確認できます。
特許庁公式HP:https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/chidan/index.html
(外部へリンクします)
イベントのロゴや大会のエンブレムを、許可なく自施設のHPやInstagramの投稿、OTA上に使用することは商標権もしくは、著作権に抵触する場合があります。まずは使用NGの範囲を確認をし、どうしても使用が必要な場合はイベント主催者へ許可をとることが必要です。
観光協会の案内文や自治体の観光ガイドのコピー&ペーストは基本的に避けた方がよいでしょう。
画像も同様で、無断使用は著作権侵害になります。
仮にフリー素材とよばれる画像や写真を使用する場合でも、利用規約があり、商用利用が禁止の場合もあります。トリミングや色変更などの二次加工の禁止、使用回数の制限、またはクレジットを記載しての使用などと利用規約があります。利用規約には必ず目を通し、使用するようにしましょう。
「〇〇イベント公式プラン」「〇〇フェス推奨宿」など、公式との提携関係が無いのにも関わらず、公式と関係があるような誤解させる表現は避けましょう。
以上の内容は、気づかないうちにやってしまっているケースが多いものです。他者の写真、セールスコピーを使用する際に、少し立ち止まって確認するだけで、多くのトラブルは未然に防げます。
次の章では、宿泊施設の日常的な販促活動の中で、特に注意すべきポイントをご紹介します。
ホテル・旅館が知的財産権に抵触しやすい9つのシーン
ここでは宿泊施設の日常業務の中で、知的財産権に抵触してしまう恐れのある9つのシーンを紹介します。無用なトラブルを防ぐための参考にしてください。
① 宿泊プランの作成
「〇〇万博入場券付きプラン」「△△花火大会観覧プラン」「□□マラソン応援宿泊パック」など、イベント名そのものが登録商標の場合、無断使用で権利侵害となる可能性があります。一般名詞(「〇〇万博」ではなく、単に「万博」など)や説明的な文章に置き換えると安全です。
また、プラン画像でも、イベント公式サイトやSNS上のロゴ・写真を無断で流用すると、著作権や商標権(場合によっては肖像権)を侵害するリスクが十分にあります。公式サイトからロゴ・写真を使用したい場合は使用許諾を得るか、自施設で撮影をしたものをイベント主催者より許諾を得たうえで使用すると安心です。基本的にロゴやキャラクター、画像には商標権や著作権があると考え、対応する必要があります。
② 公式サイトのお知らせや宿ブログの発信
観光協会のポスターやチラシ画像をそのまま掲載したり、公式ロゴをアイキャッチに使うケースでは、著作権や商標権の問題につながる恐れがあります。転載許可を得るか、ロゴやそれに似せたデザインの使用は避け、まったく別の自作画像に差し替えましょう。
③ メルマガやDMの作成
件名に「【公式】△△フェス割引」と入れたり、DMやハガキに大会キャラクターを印刷するなど、広告用途は権利者が最も敏感になる場面なので、特に注意が必要です。「公式」「公認」を名乗るのは許諾を受けた場合のみとし、キャラクターは使用せず、オリジナルデザインに差し替えると安心です。
④ 自社HPの周辺観光・周辺イベント紹介ページ
周辺観光地やイベントを自社HPで紹介する際には、運営者や主催者などに事前に掲載の許諾を取ることが基本です。これは、公式HPだけでなく、OTA、InstagramなどのSNS、ブログなど宿泊施設が公式に運用するすべての媒体に共通します。
特に、某遊園地の公式ロゴやマスコットキャラクターの写真を無断で掲載したり、自作バナーに公式ロゴを入れてしまう行為は、「紹介するだけだから大丈夫」と誤解されがちですが、不正な商用利用とみなされる可能性があります。素材の商標権の適用範囲を確認するか、運営者や主催者に許諾を得てから使用するようにしましょう。
⑤ SNS投稿でのタグ・ハッシュタグ
「#◯◯フェス泊」「#△△マラソン応援」など、登録商標をそのままタグ化して投稿するケースです。SNSは拡散力が高く、商標権者がすぐに見つけやすいため、削除要請や賠償請求につながることもあります。イベントに対する応援や紹介のつもりでも、あたかも公式と関係しているかのような印象を与えるタグは、商標権や不正競争防止法に抵触する可能性があります。
⑥ 館内POP・デジタル掲示板
ロビーの電子看板にイベント公式ロゴを貼り付けたり、客室内の案内チラシ等でマスコットを掲載するなど、館内掲示でも公衆向け表示とみなされるため、許諾がないと権利侵害にあたる恐れがあります。
⑦ プレスリリース・メディア取材対応
観光施設のロゴ入り資料をPRメディアに添付したり、公式ではないのにテレビ取材で「◯◯公式プラン」と紹介してしまうなど、商用目的での掲載や公式と勘違いをさせる内容は商標権や不正競争防止法に抵触する可能性があるため、事前に観光施設への確認や許諾を得ることが大切です。
⑧ ノベルティ製作
イベント名を入れた自社製作のタオルやキーホルダーなどのグッズを、館内で販売したり、宿泊特典として配布したりする行為は、物販やプロモーション配布とみなされ、商標の無断使用に該当するおそれがあります。このようなグッズを施設側で許可なく製作・提供することはNGです。最悪の場合、製造の差し止めや在庫の廃棄を求められるリスクもあります。トラブルを防ぐためにも、必ず事前に商標権者と許諾契約を結び、使用条件をしっかり守るようにしましょう。
⑨ 生成AIを使った表現
近年、生成AIを使ってPR文やコピーを考える場面もあると思います。AIが生成したものであっても、記載された内容の責任は投稿者側にあるので、AIで生成した文章やコピーなどの利用時には十分注意してください。
自施設のInstagramや宿ブログなどで、施設周辺の観光スポットや飲食店・イベントを紹介しようと自分で写真を撮ってアップロードすることに、注意が必要です。
上記「④ 公式HPの周辺観光・周辺イベント紹介ページ」でも触れましたが、自分で撮った写真だからといって、自由に使用していいわけではありません。
撮影した写真を公式アカウントで発信する場合、商用利用とみなされ、許可なく写真を使うと問題になることがあります。例えば、飲食店の中にはメディア掲載NGの場合もあります。また、神社やお寺のほか、個人所有の建物はPR目的で紹介すると、関係者に不快感を与えることになるかもしれません。
自分で撮影したものであっても周辺観光地や店舗、イベントを紹介する際は、運営者や事業者に掲載の許可を取るようにしましょう。許可を取ることでリスクを回避できるだけでなく、地域との信頼関係も築けます。
このように、日々の販促活動や情報発信の中には、思わぬ形で商標権などの権利を侵害してしまうリスクが潜んでいます。生成AIを活用する場面や、他のスタッフの作業内容を確認する場面でも、確認する人に十分な知識が必要になります。
では、こうしたリスクを回避しつつ、安心して地域イベントや観光地と連動した集客を行うには、どのような点に気をつければよいのでしょうか。次章では、OTAや自社HPを活用しながら、知的財産権に配慮した情報発信のステップを具体的に解説します。
迷ったときの3つの確認方法
この章では、これまでのリスクをきちんと踏まえたうえで、安心してOTAや自社ホームページでの情報発信を行うために、以下の確認方法を推奨します。
イベントや観光地の公式サイトに、公式サイト内の著作物や商用利用などに関して「注意事項」が記載されていることがあります。まずはそちらを確認しましょう。特に写真素材やロゴ、マップなどは利用条件が細かく定められているケースも多いため、細部まで目を通すことが重要です。
イベント名や観光地名が商標登録の有無や使用範囲を確認できるサイトがあります。
J‑PlatPat(特許情報プラットフォーム)で、知的財産情報をオンラインで無料検索できます。商標検索機能を使用すれば、使用したいイベント名や観光地名、ロゴやキャラクターなどが既に商標登録をされているのか、どの範囲まで商標権があるのか確認できるため実際に調べると良いでしょう。
J‑PlatPat(特許情報プラットフォーム):https://www.j-platpat.inpit.go.jp/(外部へリンクします)
不明な点がある場合は、主催元や観光協会などに直接問い合わせましょう。メールなどの文章であれば、やり取りの履歴があることで、のちのトラブルを防げる可能性もあります。観光協会によっては「PR協力申請」や「掲載依頼フォーム」などが用意されていることもあります。迷ったら主催者や運営者に問い合わせることが一番早くて確実です。
さいごに
商標登録されているものであっても、説明的文章のなかで普通名称として使用する場合は、商標としての使用にあたらないとされています。
そのため、自施設からイベントや観光地への距離が近いことを伝えたい場合は「徒歩圏内に〇〇会場があります」と記載することや「この時期は〇〇花火大会の開催があります」など、説明の文脈で使用する分には問題ありません。
万が一、名称が使えない場合には、たとえば「〇〇市内最大級の音楽フェス」「このエリアで人気の夏イベント」といった、検索ニーズに応えられる表現を検討するのも有効です。
この記事では、宿泊施設が地域イベントや観光資源を活用して集客する際に押さえておきたい法的リスクと対応方法を解説してきました。著作権や商標権、不正競争防止法といったルールは、少し難しく感じるかもしれませんが、これらは単に「法律を守るため」のものではなく、宿泊施設の信頼や地域との繋がりを守るうえでの“マナー”でもあります。
観光イベントや地元の店舗などを紹介したり、SNSやパンフレット用の写真・コピーを作成したりする中で、気づかないうちにルールを逸脱してしまうこともあり得ます。だからこそ、「この写真は使っても大丈夫かな」「このプラン名は問題ないかな」と、一度立ち止まって確認することが、施設のブランドや地域との良い関係を築くうえで大切な習慣になるでしょう。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、具体的な案件に関しては、主催団体・関係機関に直接ご確認いただくことをおすすめします。