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ホテル・旅館経営を始めるには?宿泊施設の経営に必要なスキルや資格、立上げ時に導入しておきたいサービスを解説!

インバウンド(外国人観光客)の需要拡大を背景に徐々に観光業復活の兆しが見える中、宿泊業に新規参入を計画されている事業者様や、これから宿泊事業を継承していく方もいらっしゃるのではないでしょうか。

この記事では、宿泊施設を運営するために必要なスキルや資格、宿泊施設の開業に必要な初期費用や立上げ時に導入したいサービスなどを解説します。開業までの具体的な流れをイメージや開業準備の参考に、ぜひご覧ください。

 

 

日本の宿泊施設を取りまとめている法律「旅館業法」とは?

 

有償で人を宿泊させるホテルや旅館などの施設を、適切に運営をするために取りまとめてる法律が、「旅館業法」です。旅館業法の中で、旅館業の定義は「宿泊料を受けて人を宿泊させる施設」とされています。

旅館業法では、ホテルや旅館を経営する際、都道府県知事の許可を得る必要があるとも定められています。さらに、施設内の衛生基準は都道府県の条例をもとにするため、条例の理解も欠かせません。ホテルや旅館は旅館業法の範疇であるため、宿泊施設を経営する方は旅館業法の理解は必須です。

 

ホテル・旅館の経営に必要な許認可

 

ホテルや旅館の経営をする際、旅館業法で定められている都道府県知事の許可を営業開始前に受ける必要があります。申請から許認可が下りるまでの期間は、10日程度です。しかし、ホテルや旅館の規模によって許認可が下りるまでの期間は前後するため、宿泊施設のオープンに間に合うように、余裕を持って申請を行うようにしてください。

ホテルや旅館の経営の許認可には、宿泊施設の規模によって以下の4つに分けられます。

1.ホテル営業許可
2.旅館営業許可
3.簡易宿泊営業許可
4.下宿営業許可

宿泊施設の形態や部屋数などによって該当する許認可が変わるため、それぞれの許認可の条件を確認していきましょう。

 

 

ホテル営業許可

 

ビジネスホテルや観光ホテルを経営する際に必要な許可です。洋室を中心に全客室が10室以上、1室あたりの床面積が9平方メートル以上の条件を満たす施設が、ホテル営業許可を得られます。

 

旅館営業許可

 

観光旅館や温泉旅館を経営する際に必要となる許可です。
和室を中心に全客室が5室以上、1室あたりの床面積が7平方メートル以上の条件を満たす施設が、旅館営業許可を得られます。

 

簡易宿泊営業許可

 

民宿やペンション、ゲストハウス、カプセルホテル、山小屋、スキー小屋などを経営する際に必要な許可です。客室数の条件がない一方で、客室全体の床面積は33平方メートル以上(※宿泊人数が10人未満の場合は、宿泊人数×3.3平方メートル以上)を必要とします。

 

下宿営業許可

 

宿泊料を受けて、1ヶ月以上の連続した滞在を目的とする施設を経営する際に、必要となる許可です。ただし、ホテル営業許可や旅館営業許可、簡易宿泊営業許可を得ている場合は、新たに申請する必要はありません。下宿営業許可を得るには、生活に必要な設備や採光などの各種要件を満たす必要があります。

 

 

 

ホテル・旅館で提供するサービスによって必要な許認可

 

ホテルや旅館などの宿泊施設で提供するサービスによっては、所定の機関に届け出を行い、許可を得なければならないものがあります。宿泊施設で提供する主なサービスで、許認可が必要なものは次の3つです。許認可取得までのプロセスも合わせて解説します。

1.飲食店営業許可
2.酒類販売業許可
3.公衆浴場許可

 

 

1.飲食店営業許可

 

レストランやルームサービスなど料理を提供する宿泊施設では、飲食店営業許可の申請が必要です。飲食店営業許可は、保健所に申請を行います。飲食店営業許可の取得までの流れは、次の4ステップです。

①保健所への事前相談
②飲食店営業許可の申請
③保健所と日程調整を行い、立入検査を実施
④営業許可証の交付

申請から飲食店営業許可を得られるまでの期間はおよそ2~3週間ですが、書類に不備があれば、それ以上に時間がかかります。時間に余裕をもって申請するようにしてください。

また、申請にはおよそ16,000円~19,000円程度の費用が必要です。自治体や宿泊施設の規模によって前後するため、保健所への事前相談をおすすめします。

 

 

2.酒類販売業許可

 

宿泊施設で顧客に未開栓の酒類を提供する場合には、酒類販売許可の取得が必要です。
アルコール類をグラスなどに注いだ状態で顧客に提供する場合、飲食店営業許可があれば酒類販売業許可がなくても顧客に酒類を提供できます。しかし、未開栓の酒類を施設内の自動販売機や売店などで提供する場合には、酒類販売業許可が必要です。また、酒類販売業許可は、税務署へ申請を行います。

酒類販売業許可の取得までの流れは、次の4ステップです。

 

 

①酒類指導官設置の税務署への相談
②必要書類の準備後、管轄税務署へ申請を行う
③現地調査を実施(必要な場合のみ)
④免許の交付

税務署では、酒類販売が初めての方に向けて免許取得に関する研修を行っています。酒類販売業許可の申請を検討している方は、必要に応じて参加すると申請までのイメージができるはずです。しかし、酒類販売の内容把握は一部難解な箇所もあるため、行政書士に相談して申請を代行してもらう方法もあります。

申請から酒類販売業許可を得られるまでの期間はおよそ2か月ですが、飲食店営業許可と同様に書類に不備があれば、それ以上に時間がかかります。飲食店営業許可よりも許可を得られるまでに時間が必要であるため、特に余裕をもって申請するようにしてください。
また、酒類販売業許可の申請に必要な登録免許税は、1審査あたり30,000円です。

 

 

3.公衆浴場許可

 

宿泊客以外にも宿泊施設の浴場を利用できるサービスを提供する場合、公衆浴場許可の申請が必要です。公衆浴場許可は保健所へ申請を行います。

公衆浴場許可の取得までの流れは次の4ステップです。

①保健所への事前相談
②営業許可の申請
③保健所の立入検査
④営業許可証の交付

申請から公衆浴場許可を得られるまでの期間は自治体によって異なりますが、宿泊施設のオープンのおよ2か月前に申請を行えば、オープンに余裕をもって許可を取得できます。また、保健所へ事前相談する際には施設の図面があると、話がスムーズに進むケースが多いです。
申請に必要な費用は、20,000円前後です。しかし、自治体によって異なるため、事前に保健所へ相談したり、自治体のHPを確認したりするようにしてください。

 

 

ホテル・旅館経営に有利になる取得したい資格

 

ホテルや旅館の経営をする際に、取得を推奨する資格をご紹介します。

1.防火管理者
2.食品衛生責任者
3.語学資格
4.サービス・マナーの資格

防火管理者や食品衛生責任者については、有資格者を雇用する方法もあります。しかし、求人募集の際に、必ずしも有資格者の応募があるとは限らないため、自分で取得しておけば安心です。語学やサービス・マナーの資格は、経営者として全従業員の模範となるためにも取得をおすすめします。

 

防火管理者

防火管理者とは、不特定多数の人が集まる施設で火災などによる被害を防ぐために、防火管理上で必要な業務を行う責任者です。ホテルや旅館は特定防火対象物*と位置づけられるため、収容人数が30人以上の宿泊施設では防火管理者の選任が必須です。
特定防火対象物*・・・消防法施行令別表第一で示される不特定多数の人に利用される建造物等のこと 。

防火管理者にも宿泊施設の規模によって甲種・乙種があります。
収容人数が30人以上の場合は乙種、収容人数が50人以上(もしくは30人以上かつ収容面積300平方メートル以上)になると甲種を選任する必要があります。

防火管理者の資格は、講習会に出席し受講が終了すると取得できます。甲種は10時間(2日間)、乙種は5時間(1日)の講習です。他にも、消防職員の経験があり、講習受講者と同等の知識・技能があると判断された方も防火管理者として選任できます。

ホテルや旅館を経営する場合には、防火管理者の設置はマストです。資格の取得は経営に有利になるだけでなく、経営者としての知見も広がります。

 

食品衛生責任者

ホテルや旅館でレストランやルームサービスなど食品の提供をする場合、食品衛生責任者の有資格者を必ず配置しなければなりません。食品衛生責任者は施設や提供する食材の衛生管理を行ったり、従業員に衛生管理や体調管理について指導したりする必要があります。

食品衛生責任者は都道府県ごとに開催される養成講座を受講すれば、取得できます。受講のみで資格付与となるのか、修了試験の合格が必須となるのかは都道府県ごとに違うため、各都道府県のHPを確認してみてください。

また、栄養士や調理士などの所定の資格を持っている方は、窓口で申請をすると食品衛生責任者の資格を取得できます。

食品の提供をする宿泊施設の経営を考えている場合には、防火管理者の資格と同様に、経営者として現場を知るためにも資格取得に挑戦することがおすすめです。

 

語学資格

日本の歴史や文化を興味深いと感じる外国人は多くいるため、外国人観光客の来日が今後も増えると予想されます。

和の文化をコンセプトにする旅館をはじめ、観光地へのアクセスが抜群の立地でホテルを経営しようと考えている方にとって、語学資格は外国人観光客の接客に役立ちます。メジャーな英語資格のひとつ「TOEIC」は、得点によって学習の成果がわかりやすく表れるため、おすすめの英語資格です。

また、日本への旅行はアジア圏の外国でも人気です。宿泊施設に中国語や韓国語などが話せるスタッフがいると、英語圏以外の訪日観光客にも対応できるため、安心です。

 

サービス・マナーの資格

ホテルや旅館を経営する際に役立つ、サービスやマナーの検定資格4つと検定の内容をご紹介します。

ホテルや旅館などの顧客の中には、非日常的な体験を期待して宿泊する方もいます。顧客の期待に応えるためには、サービスやマナーの理解が必要です。
経営者自身が上記資格の準1級や1級の取得をしており、サービスマナーに関して高いスキルと知識を持っていることは、組織内外での信頼性を高めるのに役立ちます。

 

 

ホテル・旅館の開業に必要な初期費用と準備の仕方

 

ホテルや旅館の開業には、莫大な費用の準備が必要です。開業に必要な初期費用や資金の準備の仕方を解説します。資金準備のポイントを押さえて、自分のホテルや旅館の経営を実現させましょう。

 

ホテル・旅館の開業に必要な初期費用

 

ホテルや旅館の開業に必要な費用は、施設の規模や立地条件によって異なります。
仮に、ホテルの規模が15~20室程度で、地方の駅から少し遠い立地条件で開業する場合、初期費用には1,500万~3,000万円程度が必要となります。内装やコンセプトにこだわった施設にしたり、立地条件が良い場所に開業したりすれば、3,000万円以上の初期費用を用意しなければなりません。
必要な初期費用を用意するためにも、まずは理想とする宿泊施設の立地やコンセプトなどを決めて、初期費用を明確にすることからスタートするのがポイントです。

 

初期費用の準備の仕方

 

ホテルや旅館の開業に必要な初期費用は、外部から借りる方法が一般的です。主な資金調達の方法には、「①出資を受ける」「②金融機関から融資を受ける」があります。それぞれの資金調達方法のメリットとデメリットを解説します。

 

1.出資を受ける

メリット
・借入ではないため、返済の必要がない。
・出資家が経営のノウハウを持っている場合もあり、経営面についてアドバイスを受けられる可能性がある。

 

デメリット

・出資家を探す必要がある
・出資家の意見も経営に反映しなければならないため、自分の理想とする宿泊施設の営業ができない可能性がある

 

 

2.金融機関から融資を受ける

メリット
・経営権が自分にあるため、理想とするホテル経営ができる可能性が高い。

 

デメリット

・借入のため、返済義務がある。
・融資を受けるために信用が必要であるため、初期費用の半分程度の自己資金を準備する必要がある。

 

メリットとデメリットを踏まえたうえで必要な初期費用の金額や自分のホテル経営のビジョンによって、自分に適する資金の準備の仕方を選択するようにしてください。

 

ホテル・旅館開業時に必要なシステム

 

ホテルの開業をスムーズに進るためには、宿泊業界専用のシステム導入が不可欠です。システムを導入することは、業務効率を向上させるだけでなく、顧客の特性や入客経路を把握することによって経営戦略に有益なヒントを与えてくれます。ここでは、ホテル運営に必要なシステムのうち、3つを紹介します。

 

1.販売予約チャネル開設

 

顧客が宿泊施設の客室を予約し、販売するための予約プラットフォームのことです。以下のような予約チャネルを開設し、施設の情報や魅力的なプランを販売する準備が必要になります。

 

┃公式ウェブサイトの予約ASP

宿泊施設の公式ウェブサイトを通じて、顧客が直接予約を行うために必要なシステムです。
通常、宿泊施設にとって販売手数料がかからないことが多く、利益率が高いです。

 

 

┃OTA(Online Travel Agency)

OTAとは、オンライン上で旅行を手配するための代理店を指します。国内では、楽天トラベルやじゃらんnetなどが代表的で、海外ではExpediaやAgodaなどがよく知られています。各OTAは独自のプロモーションやキャンペーンを展開しており、ユーザーはこれらを見て価格を比較しながら最適な選択を行います。
基本的にどのOTAも宿泊施設を掲載料は無料で、予約実績に対して手数料がかかります。そのため、複数のOTAに同時に掲載することで、販売チャネルを拡大する戦略が有効です。

 

 

 

2.サイトコントローラー

 

販路拡大のため、楽天トラベルやじゃらんnetなど、多くの宿泊予約サイト(OTA)に登録する際、これらのサイトを効率的に管理するために用いられるのが「サイトコントローラー」です。

サイトコントローラーの主な役割は、宿泊施設の在庫管理で、複数のサイトに同じ在庫数を販売できるようにするものです。例えば、じゃらんと楽天トラベルの両方で同じ部屋を提供している場合、じゃらんから予約が入ったら、楽天トラベルからその部屋の在庫を1つ減らすといった操作を自動的に行います。二重予約(ダブルブッキング)を防ぎながら効率的に販売をかけるために必要不可欠なシステムです。

 

 

 

3.ホテルPMS

 

ホテルPMSは、Property Management Systemの略語で、清算情報や空室状況、チェックインやチェックアウトなど、各客室の情報を効果的に管理するためのツールです。フロントスタッフはPMSの画面を通じて予約情報を確認し、チェックインからチェックアウトまでのプロセスをスムーズに進めることができます。無人チェックインや事前チェックインの機能を連動可能なPMSや、売店やレストランのPOSシステムと連動出来るものもあり、業務効率化を図るうえでも、PMS選びは重要です。

さらに、売上情報や顧客データを蓄積し、経営者はこれらのデータを活用して経営戦略を立案するのに役立てることも出来ます。

 

 

最後に

 

今回はホテルや旅館の経営を始める際に必要となる知識や資格、資金の準備方法を解説しました。本記事で宿泊施設の経営スタートまでのイメージをつかみ、宿泊施設の開業に向けて行動するきっかけとなれば幸いです。
また、コロナ禍を経て新サービス、新設備の展開を考えている方には、事業再構築補助金で全国の宿泊施設が取り組んだ新規事業50選の資料のダウンロードをおすすめします。ぜひ、下記サイトから資料のダウンロードを行い、新規事業の取り組みの参考にしてください。

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